人生は喜劇だ!
まさにこんな言葉が聞こえてきそうなウェス・アンダーソン監督の最新作の『アステロイド・シティ』。
みなさんは観ましたか?
相変わらず独特なタッチで引き込み、気づいたら自分たちがいる場所を錯覚させてしまうような世界観で描かれた本作品は、すでに全米で大人気の作品となっています!
この記事では映画『アステロイド・シティ』の概要・あらすじを紹介するとともに、以下の5つのポイントでネタバレ解説を紹介しています。
- 死に対する向き合い方
- 子どもの好奇心とエネルギー – 権威に負けず自意識を保て!
- ウェス・アンダーソン監督風の“未知との遭遇”
- 物語を作るのは誰か?
- フィクションの中のリアリティ
※ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。
さらにはウェス・アンダーソン監督の作品を観る上で知っておきたいウェス・アンダーソン“らしさ”についても紹介していますので、より深く本作品を知ることができるのではないでしょうか?
本作品を観たけど、他のウェス・アンダーソン監督作品を未見の方は是非おすすめの5作品もチェックしてみてください!
それでは、いってみましょう!
概要
映画『アステロイド・シティ』は、ウェス・アンダーソン監督の長編11作目となる作品です。
アメリカでの先行公開から非常に高い人気を集め、すでに前作『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』の興行収入を超える結果となっています。
興行収入においては、監督自身の最高記録も狙えるほど盛況であるため、ますます今後の期待が高まるばかりです。
本作は、架空の街『アステロイド・シティ』で繰り広げられる人間模様と、そこに突如現れる宇宙人との関わりを描いた舞台の制作過程を放送しているTV番組の内容が描かれている、という非常に複雑な仕上がりになっているので、初見では戸惑う人も多いかも知れません。
しかしながら、そのような複雑な構造であるがゆえに、いつの間にか観客はみなウェス・アンダーソンワールドに参加してしまうほど夢中になれる作品となっています。
監督/脚本 | ウェス・アンダーソン |
出演 | ジェイソン・シュワルツマン スカーレット・ヨハンソン トム・ハンクス ジェフリー・ライト エドワード・ノートン エイドリアン・ブロディ |
時間 | 104分 |
ジャンル | コメディ/恋愛 |
制作 | アメリカ |
公開 | 2023年9月1日 |
予告動画
あらすじ
1995年、アメリカの砂漠の街である“アステロイド・シティ”
人口わずか87名のこの街でジュニア宇宙科学賞の授賞式が行われようとしており、主人公のオーギーと息子のウッドロックはこの街を訪れていた。
数週間前にオーギーは妻を亡くしており、悲しみから抜け出せずにいた最中、アステロイド・シティに突如宇宙人がやって来る。
街は混乱に見舞われ、オーギーらを隔離し情報封鎖しようとするアメリカ軍だったが、ジュニア宇宙科学賞を受賞した5人の子どもたちは黙っていなかった。
という舞台『アステロイド・シティ』の制作過程がTV番組で放映される。
「なぜ、オーギーはこんなセリフを言うのか?」とオーギー役を演じるジョーンズは作家や演出家に尋ねるのだが、明確な答えは見つからない・・・
キャスト/スタッフ
ネタバレ解説を行う前に、本作品の登場人物・キャストを紹介します。
ウェス・アンダーソン監督の作品の特徴として、「登場人物が多い」というものがありますが、本作品も例外ではありません。
登場人物は多いですが、基本的に押さえておくべきキャラクターを紹介します。
登場人物全員が愛すべきキャラクターに仕上がっていますので、ぜひ注目してみてください!
オーギー・スティーンベック&ジョーンズ・ホール/ジェイソン・シュワルツマン
妻を無くした戦場カメラマンであり、『アステロイド・シティ』の主人公。
ジョーンズ・ホールという俳優がオーギー役を演じており、劇作家のコンラッドや演出家のグリーンに対してセリフの意味を問い、自らの演技に思い悩んでいる。
1980年生まれ、アメリカ出身の俳優。
ウェス・アンダーソン監督作品の常連であり、過去の出演作は『天才マックスの世界(1998)』、『ダージリン急行(2007)』、『ファンタスティック Mr.FOX(2009)』、『ムーンライズ・キングダム(2012)』、『グランド・ブタペスト・ホテル(2014)』など
ミッジ・キャンベル&メルセデス・フォード/スカーレット・ヨハンソン
全員の視線を釘付けにするほどの映画界のスター。
自身の演技に悩み、メイクなどを通して役作りをするが、なかなか満足する域に辿り着けず、オーギーに演技を見てもらっている。
ミッジを演じるのはメルセデス・フォードであり、演出家のグリーンと衝突し降板しようとするも、直前で止まる。
1984年生まれ、アメリカ出身の女優。
数多くの作品に出演しており、アカデミー賞やゴールデングローブ賞などで幾度となくノミネートされている。
代表的な作品は『ロスト・イン・トランスレーション(2003)』、『アベンジャーズ(2012)』シリーズ、『マリッジ・ストーリー(2019)』、『ジョジョ・ラビット(2019)』など
スタンリー・ザック/トム・ハンクス
オーギーの義理の父。
オーギーのことをそこまで好いておらず、うまくコミュニケーションが取れていないが、旦那・親としての務めを教示する。
1956年生まれ、アメリカ出身の俳優。
言わずと知れた大スターであり、アカデミー賞主演男優賞を2回受賞している。
代表的な作品は『フィラデルフィア(1993)』、『フォレスト・ガンプ/一期一会(1994)』、『プライベート・ライアン(1999)』、『グリーンマイル(1999)』、『ダ・ヴィンチ・コード(2006)』シリーズなど
コンラッド・アープ/エドワード・ノートン
劇作家であり、『アステロイド・シティ』の作者。
あるシーンの演出に思い悩み、出演者勢に即興の演技をお願いする。
1969年生まれ、アメリカ出身の俳優。
デビュー作『真実の行方(1996)』でいきなりゴールデングローブ賞を受賞しており、また、ウェス・アンダーソン監督作品の常連でもある。
代表的な作品は『真実の行方(1996)』、『アメリカン・ヒストリーX(1998)』、『ムーンライズ・キングダム(2012)』、『グランド・ブタペスト・ホテル(2014)』、『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊(2021)』など
監督/脚本:ウェス・アンダーソン
1969年生まれのアメリカ出身の映画監督。
脚本も自身で務めることが多いが、旧友であるオーウェン・ウィルソンやロマン・コッポラなどと共同で務めることも多い。
1996年『アンソニーのハッピー・モーテル』で長編監督デビューし、本作『アステロイド・シティ』で11作目となる。
8作目である『グランド・ブタペスト・ホテル(2014)』では、アカデミー賞作品賞を含む9部門にノミネートされ、美術賞、作曲賞、衣装デザイン賞、メイク&ヘアスタイリング賞の4部門を受賞した。
独特な世界観と色鮮やかなセットで人気を博しており、映画界で一線を画す存在となっている。
ネタバレ解説
ここからは、映画『アステロイド・シティ』のネタバレ解説を行います。
主に5つのポイントから本作品の解説を行っております。
- 死に対する向き合い方
- 子どもの自意識
- ウェス・アンダーソン監督風の“未知との遭遇”
- 物語を作るのは誰か?
- フィクションの中のリアリティ
物語の全てを紹介はしておりませんが、本作品を深く理解する上で押さえておきたい点を解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
※ネタバレを含みますので、ご注意ください。
死、そして大人(親)の生き方
本作品を解説する上で欠かせないのは、やはりオーギー家族が抱える母親の死でしょう。
オーギーはそのことをなかなか我が子に伝えることができずにいました。
それを打ち明けた後も特段取り乱すことなく、淡々と過ごしています。
ウェス・アンダーソン監督の作品では、ほとんどの作品で大切な存在の死が描かれています。※詳しくは後述しています。
この死に対してどう向き合うのか、それはオーギーにとって旦那として、そして親として、という視点です。
この街で過ごす中でミッジと出会い、お互いに心を通わせ「私たちは似ている、傷は深いのに表には出せない」と言っています。
ミッジにおいては「演じたことはあるのに、経験はしたことない」と言い、我が子との関わり方に苦慮した一面を見せています。
親に対する視点はウェス・アンダーソン監督にとっては特別なものであり、それは監督自身が若い頃に両親を失っていることにもつながっています。
だからこそ、親としてどのような存在であるべきか、ということへの一つの教訓を示しました。
オーギーは悲しみに暮れ、一時は義父に子どもを預けようとしましたが、結局は一緒に暮らすことを選択します。
それは亡き妻の言葉でもあり、「私の代わりに誰かと一緒になる方がいい」と親としてのオーギーのために言葉を届けました。
オーギーは「時間が傷を癒すなんて間違いだ、せいぜいバンドエイド程度だ」と語っていますが、それは間違いではないのでしょう。
その傷を背負いながらも誰かと一緒に生きていくことをオーギーが示してくれているのではないでしょうか?
子どもの自意識
傷を負う大人に対抗するのは天才少年です。
ウェス・アンダーソン監督作品にはしばしば天才少年・少女が登場していますが、本作品も同様に登場しています。
そして、本作品における天才少年・少女は子どもと大人の岐路に立たされていました。
彼らは研究に没頭した幼少期を過ごし、その才能を遺憾無く発揮することで、ジュニア宇宙科学賞を受賞するまでに至りましたが、その裏側にある葛藤も見受けられます。
自分の存在を主張しながらも、自分の存在を押さえ込むというパラドックスに苛まれていました。
例えば、ウッドロックで言うと、母の死を知りながらも父親から告げられないため知らないふりをして空気を読んでいました。
ミッジの娘であるダイナと「地球以外の居場所が欲しい」という点で意見が一致します。
無謀なことに挑み続ける天才少年は「挑み続けないと自分の存在を忘れられてしまう」と言います。
自己主張に疲れる子どもと自己主張をしなければ自己を保てない子どもといましたが、まさに大人になるための岐路に立たされている様子が伺えますね。
そんな悩める子どもたちですが、本作品でいちばんの力を発揮します。
宇宙人の存在を知らせるために電話回線をジャックし、軍が隠蔽しようとしていた宇宙人の存在を外部にリークしました。
優秀者な発明家である彼らはもしかすると軍の実験に利用されていたのかもしれません。
しかし、自らの発明を自らのために使い、そして子どもなりに考えた大義を果たそうとしました。
大人になる途中の悩める子どもたちの自意識を描きながらも、ウェス・アンダーソン監督が信じる子どものエネルギーを感じ取ることができます。
ウェス・アンダーソン監督風の“未知との遭遇”
本作品における宇宙人の登場は、一言で言い表すならば「ウェス・アンダーソン監督風の“未知との遭遇”」となるでしょう。
突如現れたUFOや宇宙人の出現に対し、アメリカ軍が徹底的に隠蔽工作を図っています。
これはまさにスティーブン・スピルバーグ監督の『未知との遭遇(1977)』で描かれていたことです。
さらに、『未知との遭遇』では、僻地で多くの研究員が研究を行っていますが、『アステロイド・シティ』でも若者5名が僻地に集められてジュニア宇宙科学賞の授賞式が行われています。
もしかすると、この若者5名もアメリカの極秘実験のメンバーとして組み込まれることを計画されていたのかもしれませんね。
※ここからスティーブン・スピルバーグ監督の『未知との遭遇』のネタバレを含みます。
『未知との遭遇』と決定的に異なるのは、主人公の行く末ですね。
『未知との遭遇」においては、主人公のロイは家族を捨て宇宙に引き寄せられてしまいますが、本作品においては宇宙人は死んだ妻とオーギーを繋ぐ存在となっていました。
ウェス・アンダーソン監督らしい、と言うべきか、宇宙人を使った彼なりの家族の愛を描いているのかもしれませんね。
物語を作るのは誰か?
オーギー役を演じるジョーンズは舞台が開演する前、そして開演中に2度も「なぜオーギーは火傷をするのか?」という疑問を抱いていました。
作者であるコンラッドに尋ねると、作者であるにも関わらす「わからない」と答えます。
さらにはジョーンズが「自分なりには〜」と彼なりの解釈を伝えると、「それいいね!」と言ってしまいます。
もしかすると、それぞれのセリフ、演出には全てには意味がないのかもしれません。
言い換えれば、脚本も演出も完璧な存在ではないと言うことです。
物語を作り上げていくのは制作者であり、演者であり、そして私たち観客でもあります。
私たちは映画作品、もっと言えば物語に触れたときにはこのようなことを思います。
「このシーンはどんな意味があるのだろう?」
「このセリフにはどんな意図があるのだろう?」
必死に考えて、レビューや考察を読みながらも自分なりの解釈を見出しますが、そのどれもが誰かにとっては正解であり、誰かにとっては違った解釈にもなりえます。
さらに、考慮すべきは、すべての物語は100%細部まで語られていないということです。
本作品においても、シーンごとに表示されるシーンナンバーには間が空いており、すべてを映し出していないことがわかります。
そこで一つの疑問が浮かび上がりました。
すべて映し出していない物語は不完全なものですか?
その答えはノーです。
そもそも物語は観客があって成立するものであるため、観客の想像力や感想によって完成するものなのではないでしょうか。
本作品では、オーギーとミッジが関わるシーンは基本的に窓越しであったものの、その窓枠を超えて交わり合った肝心なシーンはカットされていました。
それでも実際にすべて映し出さず想像力で私たちを満足させる力がそのシーンにはありました。
このように物語は誰かにとって完璧ではなくてはならないのかもしれないが、それだけで語られるものではないのでしょう。
「アステロイド・シティは存在しません」
TV番組の司会者言っていたこの言葉こそがある意味では本質であり、存在しないものに対して命を注いでいくのが制作者・演者のみならず私たち観客の役割でもあります。
そういう意味では、ウェス・アンダーソン監督は私たちに「みんなはどう思う?」と優しく投げかけてくれているのかもしれませんね。
フィクションの中に描かれるリアリティ
「アステロイド・シティは存在しません」
まさにフィクションで描かれた本作品ですが、その実は非常にリアリティの高い作りになっています。
例えば、人物に関して言うと、キャラクターには明確にモデルが存在しています。
オーギー役のジョーンズはジェームズ・ディーン、ミッジ役のメルセデス・フォードはマリリン・モンローがモデルになっています。
1950年代当時のアクターズ・スタジオをモデルとしており、実際にこの二人はこのアクターズ・スタジオの出身です。
同世代の出身者と言えば、あの『ゴッド・ファーザー』で主演を務めたマーロン・ブランドであり、『アステロイド・シティ』が上映されたとされる1955年に彼は『波止場』でアカデミー賞を総なめにしました。
そして、その『波止場』の映画監督を務めたエリア・カザンは本作品の劇作家のコンラッド・アープ、あるいは演出家のシューベルト・グリーンのモデルになっていると言われています。
このように実際の人物・出来事になぞりながらウェス・アンダーソン監督なりに人物像を重ね合わせてオリジナルのキャラクターを成立させています。
人物のみならず、時代背景においても同様のことが言えます。
1950年代は第二次世界大戦後の冷戦時代に突入した時代となり、アメリカはソ連に負けぬようにと軍事力を高めようとしていました。
そのため、核実験を行われており、同時期には水爆実験も行われているため、本作品内で恒常的に行われていた核爆弾の実験は非常にリアリティを描いたものと言えるでしょう。
さらには同時代に急激に宇宙人やUFOの目撃情報がアメリカ国内で起こるようになったこともまた事実です。
このように一見ファンタジーのように感じる本作品にも事実に基づいたリアリティのある背景が存在しているのですね。
ウェス・アンダーソン監督“らしさ”
このパートでは、ウェス・アンダーソン監督作品を理解する上で必要な要素、言い換えればウェス・アンダーソン監督“らしさ”を解説します。
なんとなくウェス・アンダーソン監督の作品に特徴があるように感じていた人も多いのではないかと思いますが、その特徴をしっかり紐解くことでさらに映画『アステロイド・シティ』のことが理解できるでしょう。
これらの特徴を持ってして、本作品をもう一度鑑賞する、あるいは過去作を視聴することをおすすめします!
セットや撮影へのこだわり
最も特徴的だと言えるのが、セットと撮影についてです。
多くの人が気づくと思いますが、ウェス・アンダーソン監督の作品は他の作品では感じられない見た目の特徴が多数存在しています。
ここでは大きく3つに分けて紹介します。
①色彩
映画評論家の町山智浩さんは、ウェス・アンダーソン監督の作品を「お菓子のように可愛い」と評します。
近年の作品は特にパステルカラーで彩られており、どの作品もどのシーンも色で覚えてしまうほど強烈な印象を残しています。
監督はこの色へのこだわりも強く、シーンごとに使用する色を定めており、逆にこれ以外の色は一切排除しているそうです。
この綺麗で鮮やかな色彩に魅了されるファンも多く、Instagramでは「accidentallywesanderson」というアカウントが存在し、世界の実在の風景から、ウェス・アンダーソンの映画に出てきそうな場所を撮影し投稿するような内容になっています。
②セット
セットに対しても非常に強いこだわりを持っているウェス・アンダーソン監督。
時代に逆行するかのように撮影にはCGをあまり使用せず、しっかりセットを制作して撮影に望んでいます。
そのセットへのこだわりも強く、本作品でも実際に砂漠の街「アステロイド・シティ」をはじめとして、モーテルなどの建物や岩や山、サボテンなども全て作られています。
舞台はアメリカとなっているが、スペインのチンチョンという地で撮影が行われました。
あ、その他の作品でも、『ダージリン急行』では実際にインドに赴き列車で撮影を行い、『グランド・ブダペスト・ホテル』ではドイツのゲルリッツに実際にホテルを作っています。
このこだわりがファンである私たちにリアリティを届けていますが、それだけでなく、程よい手作り感もあって愛着の湧くようなセットがあえてピックアップされていることも特徴的です。
③撮影技法
最後に、撮影技法についてです。
しばしば彼の作品では水平移動するカメラワークが多用されており、場面の全体を横に広く捉えることができます。
そのため、単一的な視点にならず、まさに舞台上で物語が上演されているような気分になれることも魅力の一つです。
本作品でもその特徴を存分に味わうことができましたが、本作品では2画面構成になるシーンもありましたね。
オーギーとスタンリーが電話で話すシーンや、少年が宇宙ウジンの存在をリークしようと電話するシーンなど・・・
これはうまく2画面の対比を示していました。(オーギーは砂漠で、スタンリーはゴルフのグリーンのような)
そして、最も特徴的だと言っても過言ではないのはシンメトリーですね。
左右対称に捉えた構図になっているシーンが多く、被写体を正面に捉え、その背景を左右対称にすることで画面に洗練された美しさが宿ります。
没入感を強めるその仕掛けは本作品でも多くの場面で見られていましたね。
傷を抱える主人公
ウェス・アンダーソン監督の作品では、共通して傷を負った人物が登場しています。
『天才マックスの世界』では母親を無くした傷を負う主人公マックス、『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』ではそれぞれの深い傷を負う3兄弟、『ダージリン急行』では父親を無くし母親を追う3兄弟、『ムーンライズ・キングダム』では親の愛を受けられないサム、といったように傷を負っています。
そして、さらに深く言えば、その傷は必ず家族に関わるものであることにはお気づきでしょうか?
これはウェス・アンダーソン監督自身の経験に基づくものが大きく、彼自身も20代の頃に両親を亡くしています。
本作品でも、オーギーは最愛の妻を失う傷を負っていますね。
その傷を忘れさせるようなものではなく、正面から受け止め、人生の次なる一面を示すようにウェス・アンダーソン監督の作品とキャラクターへの愛を提供してくれます。
語り部
ウェス・アンダーソン監督の作品ではお馴染みと言える「物語の導入」にも注目しましょう。
彼の作品の多くは、突然作品の物語を見せるのではなく、その前にワンクッション挟みます。
本作品では、『アステロイド・シティ』本編の前に、その物語の制作過程を放送するTV番組から始まりました。
この構図はしばしば見られ、例えば『グランド・ブダペスト・ホテル』では、ある女性が同名の小説を読むことからスタートし、その小説の中では昔話が語られ、その昔話の中でも昔話が語られるという仕組みになっています。
『天才マックスの世界』では舞台の幕が開く形で物語がスタートし、『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』では同名の本が読まれる形で物語がスタートします。
一見なんてことないように感じる方もいるかもしれませんが、観客の立場を明確にしてくれる仕組みになっています。
お馴染みのキャスト陣
日本の作品でも「黒澤組」や「小津組」のように、ある監督の作品にしばしば同じキャストが起用されることが多かったのですが、ウェス・アンダーソン監督の作品ではその傾向が顕著に見られます。
本作品に出演したキャストの中で、ウェス・アンダーソン監督作品に3回以上出演したことある人は実に8名もいます。
- ジェイソン・シュワルツマン
- エドワード・ノートン
- エイドリアン・ブロリー
- ティルダ・スウィントン
- リーヴ・シュレイバー
- ウィレム・デフォー
- トニー・レヴォロリ
- ジェフ・ゴールドブラム
どうりで親近感が湧くわけだ・・・
ウェス・アンダーソン監督は起用する俳優・女優との関わりを非常に大切にしており、物語を成立させるために最も必要な要素であるとも言えます。
実際に本作品では、「ジェイソン・シュワルツマンがいたから成り立つ物語だ」とも語られています。
ウェス・アンダーソン監督 おすすめ5作品
ここまで読むと、ウェス・アンダーソン監督の他の作品も気になるのではないでしょうか?
映画『アステロイド・シティ』は長編11作目となりますが、それ以前の10作品も全て魅力的です。
ここでは、その中から特におすすめの5作品を紹介していますので、ぜひチェックしてみてください!
天才マックスの世界
ウェス・アンダーソン監督の長編2作目。
名門校であるラッシュモアに通う15歳の天才少年マックスは、舞台の脚本などを務めていたため学業をおろそかにしてしまい、落第を繰り返していた。
学校の先生に恋したマックスは、あらゆる奇想天外な手を使って先生を振り向かせるために奔走するが、それが思わぬ事態を招いてしまう。
恋とか愛とか友情とか、どこか愛さずにはいられないマックスとその周囲の人物が織りなす人間模様が必見な傑作です。
ジェイソン・シュワルツマンが主演を務めています!
ザ・ロイヤル・テネンバウムズ
ウェス・アンダーソン監督の長編3作目。
テネンバウム家の3人の子ども(チャス・リッチー、マーゴ)はみな天才であり、幼い頃から大成功を収めていたが、父のロイヤルが家出したことから一気によからぬ方向に進んでいく。
問題をかけた大人となった3人のもとに突如父のロイヤルが実家に戻って来たことにより、再びテネンバウム家族の一家団欒が始まる。
抱えた傷、芽生えた亀裂、それでも家族として確かに存在する温かさを感じさせる名作になっています。
ダージリン急行
ウェス・アンダーソン監督の長編5作目。
父親の死から疎遠となっていた3兄弟がインドを横断する列車旅行を行うが、3人とも自分勝手でマイペースなため、待った波長が合わず徐々に事態はよからぬ方向に進んでいく。
旅行が進んでいくと、3人が本当に追い求めていたことが明らかになる。
3人の言動にバカバカしく呆れてしまうけれど、家族とは何か?という普遍的な問いに対する温かい答えを得ることができる作品になっています。
ムーンライズ・キングダム
ウェス・アンダーソン監督の長編7作目。
12歳の少年サムと少女スージーが駆け落ちしたことにより、島全体巻き込む大騒動に発展していく。
子ども二人の幼くも愛らしい逢瀬の裏には、大人には打ち明けられない子どもだからこその秘密があった。
やがて大人によって阻まれる二人の愛の行方と島全体を襲う嵐の行方が交錯するとき、物語は終焉を迎える。
子どもの好奇心と純愛に胸が躍り、島という狭いコミュニティだからこその温かみを感じることのできる傑作です。
グランド・ブタペスト・ホテル
ウェス・アンダーソン監督の長編8作目。
遠い昔、高級ホテル「グランド・ブダペスト・ホテル」のコンシェルジュとロビーボーイが行動を共にしていく中で、大富豪暗殺の犯人に仕立て上げられてしまう。
スリリングかつコメディ要素満載の逃走劇の行く末はいかに・・・
アカデミー賞を4部門受賞した傑作であり、これまでの作風とは一風変わった仕上がりになっています。
各レビューサイトでの評価
本作品の世間の反応や評価について紹介します。
それぞれ点数と主なレビューを3件ずつ紹介していますので、気になる方はぜひリンク先をチェックしてみてください!
Filmarksの使い方については以下の記事を参考になります。
Filmarks
・理解できないほど壮大な宇宙が広がっている
・計算し尽くされた構図と美しいロケーションが非常に気持ち良い
・いつも通りのウェス・アンダーソン監督で安心した
・「わからない」と思う要素の多い作品だった
Filmarks:『アステロイド・シティ』映画情報・感想・評価ページ(https://filmarks.com/movies/98608)
IMDb
・まさにウェス・アンダーソン!と言わしめる風変わりな作品
・素晴らしいビジュアルとサウンドトラックとセリフの数々に笑わされた
・脚本が優れているため、ドライな内容であっても生き生きとさせてくれる
・退屈に感じてしまう作品だった
IMDb『Asteroid City』 (https://www.imdb.com/title/tt14230388/)
Rotten Tomatoes(TOMATOMETER)
・ウェス・アンダーソン監督は今後も難解なやり方で独創的であり続けるのだろう
・想像力と現実の交差点に私たちを連れて行ってくれた!
・アメリカの失われた時代への誠実な讃歌だ
・ひたすら混乱を伴う作品になっていた
Rotten Tomatoes『Asteroid City』(https://www.rottentomatoes.com/m/asteroid_city)
まとめ
この記事では、映画『アステロイド・シティ』の概要・あらすじを行うとともに5つのポイントからネタバレ解説を行いました。
ウェス・アンダーソン監督らしさ全開な最新作の中には、死に対する受け止め方、子どもの自意識とエネルギー、未知との遭遇、映画芸術に対する姿勢がまざまざと描かれていました。
美術に酔い、キャラクターに酔い、物語に酔い、監督に酔う。
全てにおいて他とは一線を画すウェス・アンダーソン監督の最新作を骨の髄まで味わいたいものですね。
きっと味わいきれないでしょうけど。