映画『aftersun/アフターサン』は観ましたか?
2023年5月26日に日本で公開された作品であり、世界中で大きな話題を集めた本作品は日本でも非常に注目を集めています。
この記事では、映画『aftersun/アフターサン』の概要・あらすじを紹介するとともに、以下の5つのポイントでネタバレ解説を行います。
- 11歳の思い出
- 大人になりたいソフィ
- 触れられない親の真実
- 「なりたい大人になれた?」
- 太陽が見えたら、そばにいるのと同じ
※ネタバレを含みますので、ご注意ください。
さらに本作品の配給をしている「A24」は、本作品をはじめとして多くの人気作品を世に輩出しており、昨今大きな注目を集めています!
ぜひ、本作品以外にも「A24」の作品を観てみてくださいね!
概要
2022年に全世界で公開されるやいなや大きな評価を集め、インディペンデント・スピリット賞では新人作品賞を獲得し、ロサンゼルス映画批評家協会賞では編集賞を受賞しました。
アカデミー賞でも主演男優賞にノミネートされ、各方面で大きな注目を集めたことが伺えますね。
また、監督を務めたシャーロット・ウェルズは、本作品で長編作品デビューを果たしました。
英国アカデミー賞(BAFTA)では新人賞を見事に獲得し、36歳の若き才能の今後の活躍が期待されています。
本作品は、独特の空気感と決して多くは語らない作風で、多くの観客に解釈の余地を残している唯一無二の作品に仕上がっています。
監督 | シャーロット・ウェルズ |
出演 | ポール・メスカル フランキー・コリオ セリア・ロウルソン・ホール ケイリー・コールマン |
時間 | 101分 |
ジャンル | ドラマ |
制作 | イギリス/アメリカ |
公開 | 2023年5月26日 |
予告動画
あらすじ
11歳の少女ソフィは、夏休みに離れて暮らす31歳の父カラムとトルコのリゾート地に旅行に来ていた
ビデオカメラを通して、二人は限りある時間をゆっくり過ごしていたが、ソフィはさまざまな興味を持ち少しずつ大人になっていく
一方のカラムは、父親としてソフィのことを思いながら過ごしているが、徐々に彼の抱える苦悩や葛藤が露見していた
31歳となったソフィはビデオカメラと自身の薄れゆく記憶を頼りに、当時の記憶を少しずつ思い出し、子どもの頃には知り得なかった真実を辿っていく
ネタバレ解説/考察
ここからは、映画『aftersun/アフターサン』のネタバレ解説を行います。
本作品は、セリフなどを通して言及されていることが多くないため、解説というよりは考察やレビューといった形になると思われます。
あくまで作品の断片から筆者自身が受け取ったものだと思ってお読みいただけると幸いです。
ネタバレ解説は以下の5つをポイントとして行います。
- 11歳の思い出
- 大人になりたいソフィ
- 触れられない親の真実
- 「なりたい大人になれた?」
- 太陽が見えたら、そばにいるのと同じ
11歳の思い出
本作品の冒頭、古いビデオテープが再生されるところから始まります。
そのビデオに映っていたのは11歳のソフィという少女と父親のカラムです。
離婚したことにより母親のもとで育っていたソフィが、夏休みの間カラムと行ったトルコ旅行が記録されていました。
楽しそうにはしゃぐソフィとそれに応えるカラム。
ソフィが「11歳の時、31歳ではどんなことをしていると思ってた?」と聞きますが、カラムが「ビデオを止めて」と制し、その答えを聞くことはできませんでした。
トルコの穏やかなリゾート地でしばらく共に過ごすことになる2人ですが、ホテルの部屋が間違えられており簡易ベッドを使わざるを得なくなってしまいます。
それでも、プールや海で泳いだり、ビリヤードをしたりなど、楽しいことには変わりありません。
豪勢な施設や特別な遊びがあるような旅行ではなく、ただただゆったりと同じ時間を過ごすだけでしたが、普段会えない2人にとっては、それこそが最も欲していたものなのです。
ある時ソフィは言います。
「空を見上げて太陽が見えたら、パパも太陽を見ていると思う。離れているけど、そばにいるのと同じ」
11歳とは思えない粋な言葉ですね!
人を繋ぐのは物理的な距離ではなく、心の距離であり、その心をお互いに感じていられたら、わずかでも寂しさが紛れるものなのかもしれませんね。
大人になりたいソフィ
本作品で強調して描かれているのは、ソフィの「大人への憧れ」です。
自分自身を大きく見せようとしており、長旅で疲れているはずなのにカラムの気遣いも無用といった様子を見せていました。
その後すぐに眠ってしまっていましたね
プールサイドで、カラムが「あの娘と友達になったら?」と同年代くらいの女の子を指した際も、「幼すぎるよ」と一蹴していました。
その後も年上の学生集団に混ざってビリヤードをしたり、同年代のマイケルという男の子とキスをしたりするなど本当に11歳なのか?と思えるようなシーンがたくさんあります。
しかし、これらの多くはソフィがこの旅行で初めて経験したものであり、普段から慣れているということではありません。
そのため、ソフィは時に疎外感を感じ、自分自身が憧れて興味のある世界と自分自身の経験や気持ちが追いついていないことへのジレンマのようなものを垣間見せる姿も描かれています。
カラムにも「11歳の時、31歳ではどんなことをしていると思ってた?」と質問をしており、ソフィ自身の「大人への憧れ」が具現化され、大人の階段を登る子どもの成長が見られる構造になっていますね。
このようなソフィの「大人への憧れ」が強く描かれているからこそ、大人であるカラムの持つ苦悩や葛藤が際立っていきました。
触れられない親の真実
ソフィの大人への階段を登る成長が「光」だとするならば、カラムが抱えている苦悩や葛藤は「闇」そのものでした。
最初からずっとギプスをつけているだけでも違和感はありましたが、本作品では「触れられない親の裏側」が描かれていきます。
ソフィが眠った後、寝息を立てているソフィの後ろで1人タバコを吸う姿から始まり、ご飯代を払えずその場から逃亡したり、水中ゴーグルを無くしたことで機嫌を悪くしたり、、、
ソフィからすれば、カラムは「いいお父さん」であることに間違いはありません。
ソフィのことを気遣い、楽しんでもらおうと必死に努力していますし、危険に晒されないために護身術を教えてもいます。
しかし、「いいお父さん」でいようとすればするほど、隠せないカラム自身の人間性が露出してしまうのです。
その象徴とも言えるのが、カラオケ大会のような場で一緒に歌うことを頑なに拒否したシーンですね。
旅行の場で楽しく思い出を残すだけなので、側から見れば「何をそんなに嫌がっているんだ」と思わずにいられませんが、カラムにとっては難しかったのかもしれません。
でも頑張って1人で歌ったソフィに対して「歌のレッスンに行った方がいいぞ」と言うのはマズいですよね
その後、1人で夜の海に向かったカラムでしたが、ソフィが部屋に戻った時には裸のままベッドに横たわっていました。
翌日、カラムはソフィに謝るものの、ソフィの計らいで周囲の人々に誕生日を祝ってもらった際も浮かない表情をしていましたね。
子ども頃、「なんでお父さん(お母さん)は怒っているんだろう?」や「なんで機嫌悪いんだろう」と思う瞬間はありますよね
多くの子どもは、お父さんやお母さんの「親」の部分は見れても、「人間」の部分をちゃんと捉えることはなかなかできません。
大人になって初めて親の気持ちがわかるというのはあるあるですよね。
現在のカラムは曖昧な記憶の断片をビデオを頼りに繋ぎながら、当時は感じ得なかったカラムの「人間」の部分を見ているのです。
「なりたい大人になれた?」
本作品のテーマとして考えられるのが、「なりたい大人になれた?」という疑問です。
この問いについては、カラムとソフィの両方に言えることです。
きっとカラムはなりたい大人にはなれていなかったでしょう。
そして、なりたい大人になれていない自分自身に強い憤りを感じていたように思えます。
本作品内で、カラムは細かい失敗と大きい失敗をそれぞれしており、その度に後悔や苛立ちが垣間見えます。
細かい失敗で言えば、部屋の予約を間違えたり、ゴーグルを無くしてしまったり、、、
大きい失敗で言えば、ゴーグルを無くしたことをソフィーのせいにしたり、カラオケで頑なに歌うのを拒否したり、誕生日を祝われてもうまく喜びを表現できなかったり、、、
大きい失敗をした後、ソフィに必ず謝っていましたね。
これがカラムの後悔であり、同じ失敗を繰り返してしまう人間性でもあります。
あとで「なんであんなことしてしまったんだろう」や「なんであんなこと言ってしまったんだろう」と思うことは誰しもありますよね
さらには、何度も同じ失敗を繰り返す自分に嫌気がさし、それが現在のカラムの形成要素になっています。
現在の自分が嫌で嫌で仕方がないカラムからすれば、「なりたい大人になれた?」という質問は最も苦しい質問であり、ある意味諦めがついた瞬間だったのかもしれません。
そうしてラストの展開を思わせるように、1人で泣きながら「愛しているよ」というソフィへのメッセージを遺していましたね。
太陽が見えたら、そばにいるのと同じ
さて、本作品の最も気になるラストの展開です。
空港でソフィを見送ったカラムはビデオを片付けて1人で歩いていき、「当時はソフィが触れられなかったカラムの真実の象徴」であるダンスホールに入っていきます。
ここがソフィの記憶内の世界であり、カラムの現在の居場所です。
本作品を観た人の多くが感じているであろうことですが、このことが表しているのはカラムがすでにこの世にはいない、ということですね。
ソフィの記憶内の世界に留まっている=今は会えない=亡くなってしまっている
このように解釈ができますね!
ここでたい思い出したいのが、11歳のソフィの「空を見上げて太陽が見えたら、パパも太陽を見ていると思う。離れているけど、そばにいるのと同じ」という言葉です。
ソフィが記憶や記録の世界に頼るしかないのは、今はもうカラムは太陽を見れる場所にいない(亡くなっている)からなんですね。
生きてどこか離れた場所にいるのであれば、そばにいるのと同じなわけです。
これまでは心で通じ合っていることができていましたが、それができなくなってしまったソフィは、親の真実(人間性)に触れられる31歳になった現在、やっと思い出す決心がついたのかもしれません。
果たして31歳になったソフィは「なりたい大人」になれているのでしょうか?
11歳の時に抱いた「大人への憧れ」はどのような変化していったのでしょうか?
まだまだ考察の余地はたくさんありそうです。
各レビューサイトでの評価
本作品の世間の反応や評価について紹介します。
それぞれ点数と主なレビューを3件ずつ紹介していますので、気になる方はぜひリンク先をチェックしてみてください!
Filmarksの使い方については以下の記事を参考になります。
Filmarks
・感情の揺れ動きで多くを表現しており、言葉を失ってしまう
・感情の浮き沈みという「対照」がが至る所で表現されていた
・ラストに流れる「Under pressure」がセリフの代わりに多くを説明してくれている
Filmarks:『aftersun/アフターサン』映画情報・感想・評価ページ(https://filmarks.com/movies/105613)
IMDb
・「助けてあげたい」と心から思った、涙なしでは見れない
・外から見えるものと、内側に存在しているものは異なる、というメッセージを重く受け止めたい
・このセリフ量、撮影方法だからこそ成立した作品だと思った
IMDb 『Aftersun』(https://www.imdb.com/title/tt19770238/)
Rotten Tomatoes
・緩急のある演出が登場人物の魅力を最大限に引き出していた
・当たり前の幸せに手遅れになって気づいたときの愛の姿を表現していた
・謎に満ちた描写も多いが、その余白が素晴らしさを物語っている
Rotten Tomates 『aftersun』(https://www.rottentomatoes.com/m/aftersun)
アカデミー賞を席巻した「A24」が配給!
本作品は「A24」という会社が配給しており、昨今どの作品も注目を集めていますね!
作品のラインナップは非常に幅広いにも関わらず、どの作品も唯一無二のような空気感を纏っており、その点では本作品も同様ではないかと思います。
映画会社に注目して作品を観ることはあまり多くないかもしれませんが、それでも「A24」は特別のような存在感を醸し出していますので、ぜひこちらもチェックしてみてください!
本作品もアカデミー賞ノミネート!
本作品は、2023年アカデミー賞において主演男優賞(ポール・メスカル)でノミネートされました!
作品賞以外は5作品しかノミネートされませんので、よくノミネートに選ばれたなと率直に感じます。
『トップガン:マーヴェリック』のトム・クルーズですらノミネートされていないですからね
本作品ではポール・メスカルは「いいお父さん」でありながらも、大人の人間としての「闇」を抱えている役を演じていますが、その演技力をまざまざと見せつけられるような圧巻のパフォーマンスでした!
残念ながら受賞とは至らなかったものの、本作品以降にも多くの作品への出演が決まっており、あのアカデミー賞作品賞を受賞した『グラディエーター』の続編への出演も決まっているので、今後の活躍にも目が離せません。
また、ポール・メスカルだけでなく、ソフィ役を演じたフランキー・コリオの演技もすばらしかったですね!
まだ13歳の彼女ですが、今後の作品でも大きな活躍が期待できそうです。
みなさん、今後も追いかけていきましょう!
「A24」のアカデミー賞の結果
2023年、「A24」はアカデミー賞をはじめとした多くの映画賞において、完全に主役となっていました。
2023年アカデミー賞だけでも、実に9部門を受賞しています。
過去の結果から合わせても、これは快挙ですね!
- 作品賞/EEAAO
- 監督賞/EEAAO
- 主演男優賞/ザ・ホエール
- 主演女優賞/EEAAO
- 助演男優賞/EEAAO
- 助演女優賞/EEAAO
- 脚本賞/EEAAO
- 編集賞/EEAAO
- メイク&ヘアスタイリング賞/ザ・ホエール
※EEAAO:『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
うち7部門は『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が占めていますね。
もちろん『ザ・ホエール』も非常に素晴らしい作品でしたので、本作品とともにぜひチェックしてみてくださいね!
まとめ
この記事では、映画『aftersun/アフターサン』の概要・あらすじを紹介するとともに、主に5つのポイントからネタバレ解説を行いました。
- 離れている2人は距離ではなく心で通じているように見えた
- 大人になる過程を歩む姿が見られた
- カラムの「親」の部分は見ていたが、「人間」の部分は見えていなかった
- なりたい大人になれなかったカラムの後悔が映されていた
- カラムが亡くなり、そばにいなくなったからこそソフィは思い出す決心がついた
観られた多くの人が言っていますが、「ちょっとよくわからない・・・」というのが正直な感想になってしまう作品でもあります。
昨今、このような「観客側に解釈を委ねる作品」が増えてきた印象にありますよね。
本作品は、純粋に「観客側に解釈を委ねる」というものではなく、記憶の断片という「事実と解釈が入り混じったもの」であることを強調するためにこのような演出になっているのではないか?と感じました。
わかりやすく、すっきりする作品ももちろん素晴らしいですが、このような「観終わった後にしばらく作品の世界から抜け出せない作品」も中毒性があっていいですよね。