映画『怪物』は観ましたか?
『万引き家族』や『ベイビー・ブローカー』を手がけた是枝裕和監督の最新作であり、2023年6月2日に公開されました。
この記事では、映画『怪物』の概要・あらすじを紹介するとともに、5つのポイントからネタバレ解説を行っています。
- 正義の交錯① – 麦野早織
- 正義の交錯② – 保利道敏
- 正義の交錯③ – 麦野湊
- 結末が表す意味とは?
- 「怪物」とは誰なのか?
※ネタバレを含みますので、ご注意ください。
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概要

映画『怪物』は、2023年6月に公開された日本のドラマ映画です。
監督は『万引き家族』や『ベイビー・ブローカー』を手がけた是枝裕和監督が務めており、脚本は『花束みたいな恋をした』を手がけた坂元裕二さんが担当しています。
構想から公開まで長きの時間を費やした本作品は、その完成度の高さで大きな注目を集めており、2023年第76回カンヌ国際映画祭では、見事に脚本賞を受賞しました!
今の時代だからこそ考えさせられる内容になっており、それぞれ観る人によって解釈が変わるような作品に仕上がっています。
また、先日亡くなられた坂本龍一さんが手がける音楽も非常に素晴らしく、エンディングではついつい涙してしまう人も少なくないのではないでしょうか?

監督 | 是枝裕和 |
脚本 | 坂元裕二 |
音楽 | 坂本龍一 |
出演 | 安藤サクラ 永山瑛太 黒川想矢 柊木陽太 |
時間 | 126分 |
ジャンル | ドラマ |
制作 | 日本 |
公開 | 2023年6月2日 |
予告動画
あらすじ
麦野早織(安藤サクラ)はシングルマザーであり、小学5年生の息子の湊(黒川想矢)と2人で暮らしていた
夫に先立たれながらも2人は幸せに暮らしているように思えたが、ある時を境に湊に異変が起き始める
その異変の原因が湊の担任の先生である保利(永山瑛太)であると聞いた早織は学校に押しかけるものの、学校側の対応は釈然としないものであり、当の保利にも「むしろ湊くんはいじめをやってますよ」と言われてしまう
お互いの主張が食い違い、お互いの行動がすれ違っていくことで、とんでもない事態を招いてしまう

登場人物/キャスト
ネタバレ解説に入る前に、本作品の登場人物を紹介します。
どの作品ももちろんですが、本作品は特にそれぞれの登場人物に焦点が当てられているため、事前にどんな人物なのか知っておくと、より深く作品のことを知れますので、ぜひチェックしてみてください。
安藤サクラさんや永山瑛太さんは是枝監督の作品によく出演していますが、今回出演している黒川想矢さんや柊木陽太さんの演技も非常に素晴らしいものがありました。
麦野早織/安藤サクラ

夫に先立たれ、小学5年生の湊を育てているシングルマザー
夫との時間、息子との時間が幸せであったがゆえに、湊に対しても「お父さんのようになってほしい」という思いを抱く
湊が保利に暴力を振るわれたことに対する学校側の対応がずさんであったため、次第に攻撃的な言動が目立っていくようになる
- ある男(2022)
- 万引き家族(2018)
- 百円の恋(2014)
保利道敏/永山瑛太

湊のクラスの担任を務めている
真面目な性格で、教室としてあるべき姿を真っ当すべく努力しているが、「男はこうあるべき」というような古風な考えを持つ一面も見られる
自分の見たことのみを信じているため、それが思わぬ事態にもつながってしまう
- 護られなかった者たちへ(2021)
- アヒルと鴨のコインロッカー(2006)
- サマータイムマシン・ブルース(2005)
麦野湊/黒川想矢

小学5年生、早織の一人息子
星川をいじめから救う勇気ある少年であったが、ある日を境に自身の本心に気づいてしまう
自身の本心と早織の理想とのギャップに苦悩と葛藤を持ち、次第に行動に現れていく
星川依里/柊木陽太

湊のクラスメイトであり、いじめられている
変わった一面を持ち合わせているため、父親などからも「お前は病気だ、お前の脳は豚の脳だ」と言われていた
湊との出会いで自身の居場所を見つけ、心の中を開いていく

ネタバレ解説

ここからは、映画『怪物』のネタバレ解説を行います。
この記事では、本作品のテーマを「正義の交錯」とし、ストーリーの流れに沿って、それぞれの視点からの正義について解説しています。
さらに、気になる結末が表す意味、そして「怪物」とは果たして誰なのか?についても徹底的に考察していきます。
ぜひ、チェックしてください!
- 正義の交錯① – 麦野早織
- 正義の交錯② – 保利道敏
- 正義の交錯③ – 麦野湊
- 結末が表す意味とは?
- 「怪物」とは誰なのか?
※ネタバレを含みますので、ご注意ください。また、解説の内容上、ところどころ物語を省いています。
正義の交錯① – 麦野早織
本作品は大きく三部構成で描かれており、その第一部を飾っているのが麦野早織(安藤サクラ)です。
シングルマザーとして、息子の湊(黒川想矢)と2人で暮らしていました。
2人の中は非常に良く、近所で火事が起こった際には、ベランダから2人で眺めながら、アイスを仲良く分けて食べています。
港が学校に行く際は外まで出て見送り、港が白線から飛び出して歩いていた時は「はみ出たら地獄だよ」と冗談を言って楽しんでいる姿も見られました。
さらに亡くなった父の誕生日にはケーキを買い、仏壇に向かって誕生日の歌を歌ったりもしています。
湊から「お父さんは生まれ変わったかな?何に生まれ変わったかな?」と聞かれ、その話題でも盛り上がりました。
そんな幸せそうな早織と湊ですが、ある時を境に湊の様子がおかしくなっていきます。
- 洗面台で自分で髪を切っていた
- 靴の片方がなくなっていた
- 水筒の中から泥水が出てきた
これらの様子を見て、早織は湊のことを心配しますが、本人に深く聞くようなことはしません。
しかし、早織が動かざるを得ない決定的な事件が起こります。
ある日、湊が突如姿を消し、知人の情報を頼りに現在は使われていないトンネルに行くと、「怪物だーれだ」と1人で呟く湊が立っていました。
思わず抱きしめ、2人で家に帰っていましたが、湊は走っている車のドアを開け飛び降ります。
「普通の幸せでいいんだよ」と慰めていた矢先のことだったので早織もびっくりです。
耳から血を流しており、あまりにも様子がおかしいのでちゃんと事情を聞くと、「保利先生(永山瑛太)に暴力を振るわれ、『お前の脳は豚の脳だ』と言われた」と打ち明けるのでした。
母である早織は怒り心頭のまま学校に出向かい、校長先生に事情を伺うのですが、校長先生の態度が釈然としません。
どうやら孫を交通事故で亡くしたことが原因とのことでしたが、その後に来た先生たちも本腰を入れて向き合ってくれているようには思えませんでした。
当事者である保利先生はまったく反省の色を浮かべず、むしろ早織を煽るような言葉をかけます。
早織は学校としての態度に納得がいかず、足繁く学校に通いますが、全く議論は進みません。
校長先生は台本のようなものを読むだけで、「保利先生の手と麦野君の鼻が触れた、という事実を確認しました」と早織を逆撫でするようなことを言います。

早織が「手と鼻が触れるとはこういうことですよ」と校長先生の花を触るシーンが印象的でしたね
そして、話が進まないばかりか、保利先生は「湊くんはいじめをやってますよ。星川(柊木陽太)という生徒をいじめています」と言ってきます。
もちろん聞く耳を持たない早織でしたが、気がつけば早織自身もどんどん攻撃的になっています。
信じられるわけもありませんが、港の部屋から着火ライターが出てきたことにより、星川くんの家を訪ねるのでした。
星川くんは明るく元気な子でしたが、腕にはあざや傷が多数あったため、改めて校長室で星川くんに事情を聞くと、「保利先生に暴力を振るわれた」と湊と同様のことを言うのです。
ついに保利先生は保護者の前で謝罪し、新聞や雑誌で生徒への罵倒や暴力が暴露されました。
釈然としない部分はありながらも、早織にとっては湊が傷つく元凶である保利先生がいなくなったため安堵していましたが、ある嵐の日に湊は姿を消します。
そして、「麦野!」と叫びながら保利先生が家を訪ねてきました。
早織のパートで描かれる「正義」は、もちろん母としての正義です。
学校で暴力を振るわれ、罵倒され、学校に行くことも辛くなっていた息子を守るために学校に出向くのは当然の行いですよね。
さらに学校側の対応もずさんであったため、余計に早織の怒りのボルテージも上昇していきましたが、全ては息子を守るための「正義」なのでした。
正義の交錯② – 保利道敏
第二部は、今回の事件の元凶である保利先生の視点で描かれます。
保利先生はこの学校に最近赴任したばかりであり、教室として生徒にいち早く馴染もうと努力していました。
彼は真面目な性格であり、常に正しいと信じていることを行ってきました。
その行為は行き過ぎ、書物の誤植を見つけ出版社にクレームの連絡をするような過激な場面もありますが、、、
それでも先生としては生徒からも愛されるような存在であり、とても湊に暴力を振るっているとは思えません。
彼には結婚を考えている広奈(高畑充希)がいますが、彼女には無下に扱われていました。
転覆病にかかっている金魚のようなだと言われたり、小馬鹿にするような言葉をかけられたり、など、、、
ある日、教室で騒ぎが起こっていることを知り駆けつけると、湊がクラスメイトの体操着などを投げ暴れていました。
急いで湊を止めますが、その際に不意に手が湊の顔に当たってしまい、湊の鼻から鼻血が出てしまいます。
湊にクラスメイトに謝るように指示し、ひとまず状況は解決したように思えましたが、保護者が来校しクレームを訴えていると知らせを受けます。
そうです、その保護者は早織です。



別視点から同じ時間を描いていることで、本作品のテーマを強く感じさせる作りになっています
どうやら自分が湊に暴力を振るい、暴言を吐いたことにされており、認めて謝るように校長先生などから言われますが、保利は拒否します。
それでも事態を収めるために謝罪するように強要されてしまい、渋々謝罪をしました。
その態度が原因でますます事態が大ごとになってしまうのですが、保利からすれば言われのない罪を着せられたわけですから納得ができるはずもありません。
そして、ある日星川がトイレに閉じ込められているのを発見したのですが、その近くに湊がいました。
さらにクラスメイトの女の子から「麦野くんが猫をいじめている」というタレコミを受け、湊が星川をいじめているのではないか?と疑い始めます。
星川を心配した保利は彼の自宅を訪ねると、父親が「あいつの脳は豚の脳だ」と言うのを聞き、さらに心配は加速します。
一方で早織は定期的に学校に来ているわけですから、自分自身がやっていないことを弁明しなければなりません。
そこでクライメイトの女の子に、湊が猫をいじめていたことを証言するように頼みますが、「そんなこと言ってません」と言われてしまいます。
追い詰められた保利はついに開き直ってしまい、「湊くんはいじめをやってますよ。星川(柊木陽太)という生徒をいじめています」と早織に伝えるのでした。
ここからの流れは早織のパートでも描かれた通り、星川にも証言され保護者の前で謝罪をします。
そんな保利のもとにマスコミが訪れ、保利が行ったとされる暴力や暴言が大々的に拡散されていきました。



恋人の広奈も自身の保身のためにあっさり保利を見捨てていましたね
踏んだり蹴ったりの保利はどうしても納得がいかず、学校に行き、湊に「俺何か悪いことしたか?」と問い詰めます。
逃げた湊は階段から落ちて怪我を負ってしまい、逃げ場を無くした保利は学校の屋根に上り、全てを諦めたような表情を浮かべていました。
そうして荒んだ生活に転落したある日、作文を添削していると、星川と湊の作文用紙の1文字目が「ほしかわいりむぎのみなと」となっていることに気づき、嵐の中湊の家に向かいます。
早織と合流して湊を探しに行くのでした。
保利のパートで描かれる「正義」は、正しいことを行う正義です。
教師としてどうあるべきか、子どもとどう関わるべきか、など、一見すると理想の教師のような姿にも見てとれます。
学校が正しくない対応をすることに対して強く反発したことにより、早織との間で衝突が起こり事態がとんでもない方向に行ってしまったのですが、、、
正義の交錯③ – 麦野湊
第三部は、湊の視点で描かれています。
湊はごく普通の小学生でしたが、クラスではいじめが行われており、そのターゲットは星川でした。
明るく天真爛漫な星川は女子とも分け隔てなく仲良くしており、時折不思議な感性を見せる彼はある意味で目立った存在のため、いじめのターゲットにされてしまったのです。
もともと星川と仲良く話す間柄でしたが、自身がいじめに巻き込まれることを避けるために、星川に「みんなの前では話かけないで」と言ってしまいます。
それでも星川の様子が気になる湊は、帰り道に裸足でマンホールを覗いている星川に駆け寄り自身の靴を片方貸してあげました。
仲は深まり、星川に秘密基地を案内してもらいます。
そこは、もう使われていないトンネルを抜けた先にある廃線電車の車両でした。
ある日、またもや星川はいじめに遭いますが、それを守ろうとした湊は自らが暴れ回ることで注目を集めました。



子どもだからこその不器用さがありますが、友達を想った勇気ある行動ですよね
2人はいつも秘密基地で過ごしており、パンを食べたり、ゲームをしたりしています。
そのゲームとは、「かいぶつだーれだ」という掛け声とともに生き物のイラストを描いた紙をおでこに当て、自らが出した質問をもとに生き物の名前を当てるというものでした。
星川は父親から「お前は病気だ、お前の脳は豚の脳だ」と言われていることを話し、湊は心配します。
星川の家庭の状況が気になる中、「ビッグクランチ」という宇宙の終末について星川が話しました。
ビッグクランチ(Big Crunch)とは、予測される宇宙の終焉の一形態である。現在考えられている宇宙モデルでは、宇宙はビッグバンによって膨張を開始したとされているが、宇宙全体に含まれる質量(エネルギー)がある値よりも大きい場合には、自身の持つ重力によっていずれ膨張から収縮に転じ、宇宙にある全ての物質と時空は無次元の特異点に収束すると考えられる。
※Wikipedia参照
そうして生まれ変わるのだと星川は言います。
ある日、猫の死体を見つけた星川は「このままだと生まれ変われない」と言い、猫を埋め、着火ライターで枯葉に火をつけます。
火事の心配をした湊は水筒に泥水を入れ、慌てて消火しました。
最近起こった火事のことが頭をよぎり、星川から着火ライターを取り上げます。
それでも相変わらず秘密基地で2人の時間を過ごしていたのですが、星川が引っ越すことになったことを聞き、湊はショックを受けます。
そして、そこで湊は初めて星川への気持ちが「ただの友達」ではないことに気づきました。
それは星川も同じであり、2人は恋心を抱いて距離を近づけますが、湊は自分の中で受け入れることができず、星川のことを拒絶してしまいます。
湊は自身の抱いている気持ちを受け入れることができず、星川を避けるようにしていたある時、星川はいじめられてしまいますが、湊は庇ったことを誤魔化すために星川に掴みかかっていました。
保利が止めたことによりその場は治りましたが、耳を怪我した湊はちゃんと謝罪するために、星川を秘密基地に呼びます。
「かいぶつだーれだ」と言いながらトンネルで待っていましたが、そこに現れたのは星川ではなく早織でした。
早織に連れて帰られる最中に星川から電話がかかってきており、「ごめん、お父さんのようにはなれない」と言って再びトンネルに向かうために車から飛び降りた湊は、その行動の理由を早織に言うことができず、咄嗟に保利先生のせいにしてしまうのです。
早織が求めていた「普通の生き方」ができないと悟った湊が苦しさから起こした行動だったのですね。
湊のパートで描かれる「正義」は、星川をいじめから守る正義です。
子どもであるが故に自らの保身に走ってしまったり、不器用であったりもするのですが、星川に手を差し伸べることで、星川の居場所を作っていました。
誰にも共有できない理由があり、彼の正義は次第に形を変えていくのですが、そんな湊に星川が救われていたのは事実です。
加えて、母の早織が求める「普通の生き方」に応えようとしていたこともある意味正義なのかもしれませんね。
結末が表す意味とは?
星川の家を訪ねた湊は「病気が治った、好きな女のことができた」と星川に言われてしまいます。
父親にも「今まで仲良くしてくれてありがとう」と言われてドアを閉められますが、すぐに星川が外に出てきて「ごめん、嘘!」と言い、父親に制されてしまいます。
自分の気持ちを受け入れられず、誰にも言えなかった湊のもとに保利先生が詰め寄ってきて逃げますが、逃げた先で校長先生と遭遇しました。
「誰にでもなれない幸せは幸せとは言わない」という校長先生の言葉を聞き、ついに星川に抱いている気持ちを受け入れることができました。
そうして感情を解放した湊が嵐の日に星川の家に侵入したところ、星川が浴槽で倒れている姿を発見します。
湊は「ビッククランチが来たよ!」と星川を救うために連れ出し、嵐の中、秘密基地に向かいました。
土砂により、2人の秘密基地は危険にさらされますが、なんとか嵐を乗り越えます。
泥だらけになった2人は、嵐があったことが嘘かのような輝く晴天のもとで、喜びを浮かべて走り出していきました。
以下、筆者なりの結末の考察/解釈です。
ラストシーンで晴天のもとを2人が笑顔で走るところから、世界は生まれ変わり、2人の純愛が叶ったのだと思いました。



あくまで“精神的”なので、付き合ったり、周りから認められるということではありません
湊の中で受け入れることができた、ということですね
避難指示のサイレンを聞いた2人は「出発の合図だ!!」と言います。
生まれ変わりを示すビッグクランチとはこの嵐のことであり、まさに世界の生まれ変わりに向かって出発しようとしているのです。
嵐による土砂で2人は非常に危険な状態に晒されていましたが、2人は身を潜めることで乗り越えました。
星川が「生まれ変わったのかな?」と聞くと、湊は「そういうのはないと思うよ、元のままだ」と否定しましたが、湊にとっての“元のまま=これまでの普通”が変わったのです。
すなわち、泥だらけの2人は昨日までの自分を断ち、新たな自分としての人生を送れるようになったのでしょう。
それは他の人々にとっても同様のことが言えますね。



星川の「よかった」という言葉もこのことを物語っていますね
新たな自分というのは、これまで拒絶していた自分を認めてあげることができ、相手をも認めることができていることを表しています。
少数派である2人は、子どもであることもあり、相当強い葛藤を抱いていたはずです。
本作品は、そうした“普通であること”に悩んでいる人々にとっての「自分を認めてあげること」、そして大多数の人々にとっての「人を認めてあげられること」の両方をメッセージとして描いているのではないでしょうか?
その先にある「本当の幸せ=誰でもなれる幸せ」が、2人の純愛から読み取れました。
「怪物」とは誰なのか?
さて、本作品の最も核となる「怪物」の存在は果たして誰なのかを考えていきましょう。
結論から申し上げると、誰のことでもありません。
しかし、逆を返すと、誰のことでもあります。
怪物の正体とは、「みんなが個人個人で抱いている正義」です。
本作品は三部で構成され、あらゆる視点から描かれることで自体の真相に近づいていきますが、真相に近づくに連れてそれぞれの行なっていることに疑問が浮かんできます。
その疑問の根本が、まさに「みんなが個人個人で抱いている正義」なのではないでしょうか?
早織にとっての正義であった「湊を守るために行なったこと」は、母親としては当然の行動だと思いますし、間違っているとは言えません。
しかし、保利の暴力・暴言の事実がない学校側からすれば、ただのモンスターペアレントですよね。
保利にとっての正義であった「正しいことを行うこと」は、理想の教師像として見える場面もありますし、自身がやってもいないことをでっち上げられてしまったわけですから、あのような態度を取っても仕方ありません。
しかし、保利自身も断片的に物事を見てしまうこともあるため、本当の正しさではないこともあります。
湊にとっての正義であった「星川を守るための行動」は、友達を守る優しい少年として素晴らしいことであり、結果的に星川は救われたのですから、その行動は賞賛されるべきものがあります。
しかし、その正義は形を変えた結果、保利の冤罪を生んでしまい、多くの人間を2人の世界に巻き込んでしまいました。
もちろんこの世には順当な悪も存在しています。



星川の父やいじめっ子などは順当な悪なような気がしますね
それぞれが抱える正義は決して間違えてはいないけれど、それが「個人の考えによるもの」であった場合は、恐るべき強大な怪物を生んでしまう可能性もあるわけです。
脚本を務めた坂元裕二さんがインタビューで語っていたエピソードがあります。
車を運転していた時、前のトラックが信号が青になってもなかなか進まないためクラクションを鳴らしたのですが、実はトラックは車椅子の歩行者が横断歩道を渡るのを待っていただけだったそうです。
このエピソードにおいても、坂元さん自身がトラックが青信号でも進まないことに対する「個人の考えによる正義」が生まれたため起こったことでもあります。
今の時代、個人で発信できる機会が増えたからこそ、「個人の考えによる正義」が多く生まれ、それが振りかざされてしまっているように感じませんか?
私たちはそれぞれが「正義」を持って生きていますが、その誰しもが常に「怪物」を生み出す片棒を担いでいるのではないか?と考えさせられるような作品になっています。
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各レビューサイトでの評価


本作品の世間の反応や評価について紹介します。
それぞれ点数と主なレビューを3件ずつ紹介していますので、気になる方はぜひリンク先をチェックしてみてください!
Filmarksの使い方については以下の記事を参考になります。


Filmarks
・黒澤明の『羅生門』のような作りでありながらも、本作品にしかない唯一無二の魅力を感じた
・同じ出来事であるのに視点によって真実が変わってしまう、というところが非常に面白かったし考えさせられる
・自分自身も知らず知らずのうちに加害者になってしまっているという恐怖を感じた
・ラストの余韻が是枝監督作品の最大の魅力である
・感情が揺さぶられすぎて、観終わった後はどっと疲れていた
Filmarks:『怪物』映画情報・感想・評価ページ(https://filmarks.com/movies/106550)
Rotten Tomatoes
・もともと是枝監督は子ども描写の演出が素晴らしかったが、本作品はそれを存分に発揮していた
・怪物になることや、怪物であると他人を非難することや、成長の苦悩と痛みを、戸惑いながらも限りなく鮮明に表現していた
・遠回しでありながら感情的に読みやすい作品となっている
Rotten Tomates 『Monster』(https://www.rottentomatoes.com/m/monster_2023)


まとめ
この記事では、映画『怪物』の概要・あらすじを紹介するとともにネタバレ解説/考察を行いました。
- 早織 – 母として息子を守る正義
- 保利 – 教師として正しいことを行う正義
- 湊 – 星川をいじめから守り居場所を作るという正義
- 湊と星川は新しく生まれ変わり、2人の純愛を実らせた
- それぞれの掲げるその「正義」こそが真の「怪物」であった
解釈の余地がたくさんある作品になっているために、観る人によってはまた違った視点から本作品を捉えるのではないかと思います。
それこそが映画の醍醐味だったりしますよね。
もっともっと語りたいことはあるのですが、筆者の伝えたいことがブレる可能性があったため、少し省略している箇所があります。
校長先生のこととか・・・
いろいろと考えていける作品だからこそ、たくさん観ることで本作品への解釈を培っていきたいと思います。
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