映画『カモン カモン』は観ましたか?
この記事では、映画『カモン カモン』の概要・あらすじを紹介するとともに、以下の5つのポイントでネタバレ解説を行なっています。
- 突如始まる共同生活
- 母親の苦悩
- ジェシーの訴え
- ジェシーとジョニーの友情
- 未成年の主張
※ネタバレを含みますので、あらかじめご注意ください。
全編通して白黒で構成されておりますが、作品のメッセージを通して、とても心が打たれる内容になっていますので、ぜひチェックしてみてください!
それでは、いってみましょう!
概要
映画『カモン カモン』は2022年に公開されたアメリカのドラマ映画です。
監督・脚本を務めるのは、『人生はビギナーズ』や『20センチュリー・ウーマン』を手がけたマイク・ミルズ監督です。
上記2作で描かれていた父親や母親との関係に続き、自身が父親となり経験した子育てをもとに作られた作品となっています。
さらに、主演を務めるのは、『ジョーカー』で主演を務め、その年の主演男優賞を総なめしたホアキン・フェニックスです。
『ジョーカー』の時とは、見た目もキャラクターも全く異なりますが、本作品でホアキンの温かい演技に魅了される人も多いのではないでしょうか?
また、ジェシーを演じるウディ・ノーマンの愛くるしいキャラクターにも要注目です!
普遍的でありながらも、なかなか難しいメッセージが含まれており、さらに思わず涙が出てしまうほど心が温まる友情のストーリーに仕上がった作品となっています。
監督/脚本 | マイク・ミルズ |
出演 | ホアキン・フェニックス ウディ・ノーマン ギャビー・ホフマン ジャブーキー・ヤング=ホワイト |
時間 | 108分 |
ジャンル | ドラマ |
制作 | アメリカ |
公開 | 2022年4月22日 |
予告動画
あらすじ
ニューヨークでラジオジャーナリストを務めていたジョニーは、未成年の少年少女に未来についてインタビューを行っていた
ある日、妹のヴィヴから9歳のジェシーの面倒を見るように頼まれ、ジョニーとジェシーとの共同生活が始まる
自由奔放で好奇心旺盛なジェシーの言動に四苦八苦するジョニーだったが、ジェシーに歩み寄ろうと努めていき次第に2人の距離は縮まっていく
ジェシーが抱えていた“未成年の主張”とは・・・
登場人物/キャスト
ネタバレ解説を行う前に、本作品の登場人物・キャストを紹介します。
基本的に登場人物は少なく、主要なメンバーはジョニー、ジェシー、ヴィヴの3名のみとなります。
話自体はシンプルですが、それぞれのキャラクターは非常に魅力的ですので、ぜひチェックしてみてください!
ジョニー/ホアキン・フェニックス
ニューヨークでラジオジャーナリストを務める中年男性
未婚のため、一人暮らしをしている
事を荒立てないようにする節があることから、妹のヴィヴとは母親の介護を巡って確執を起こしていた
ジェシーへの関わり方で苦悩するが、徐々に歩み寄る姿勢を見せ、2人の間に友情が芽生えて行く
- ジョーカー(2019年)
- her/世界でひとつの彼女(2013年)
- ザ・マスター(2012年)
- ウォーク・ザ・ライン/君につづく道(2005年)
- グラディエーター(2000年)
ジェシー/ウディ・ノーマン
ジョニーと共同生活を送ることになった9歳の少年
自由奔放で好奇心旺盛がゆえに、ジョニーを困らせていたが、その裏にはジェシーなりの思いがある
ジョニーとの関わりの中で、これまでは見せなかった一面を見せ、友情を築いていく
ヴィヴ/ギャビー・ホフマン
ジョニーの妹であり、ジェシーの母
精神病を患っている夫のポールの看病をするために、ジェシーをジョニーに預けることになる
「妻」としての務めと「母親」としての務めに疲弊していたが、離れたジェシーが成長して行く様を見ていく
ネタバレ解説
ここからは、映画『カモン カモン』のネタバレ解説を行いますが、改めて本作品の5つのポイントをおさらいします。
- 突如始まる共同生活
- 母親の苦悩
- ジェシーの訴え
- ジェシーとジョニーの友情
- 未成年の主張
※ネタバレを含みますので、あらかじめご注意ください。
突如始まる共同生活
ニューヨークでラジオジャーナリストを務めていたジョニーは突如、甥のジェシーの面倒を見ることになりました。
ジェシーの母であり、ジョニーの妹であるヴィヴが、精神病を患っている夫ポールの看病をするために自宅を離れることになったため、ジョニーは快く受け入れます。
そうして始まったジェシーとの共同生活でしたが、9歳のジェシーは自由奔放で好奇心旺盛です。
「土曜日だから問題ない」とリビングでクラシック音楽を大音量で流したり、ジョニーに質問攻めしたりしてジョニーを困らせていました。
「なんで結婚していないの?なんで別れちゃったの?今でも好き?なんでお母さんと話さないの?」とジョニーが答えにくい質問をしていきます。
ジョニーは、ジェシーのことがうまく掴めず対応に四苦八苦した結果、「なんで君はそんなに奇妙なんだ?」と問いかけます。
すると、ジェシーは「普通って何?」と聞き返すのでした。
ジェシーの自由奔放さはその後も続き、音楽が流れる歯ブラシを買いたいと言って聞かず、居なくなったと思ったら脅かしてくる、というジョニーが困り果ててしまうのもわかるような言動が目立っていました。
後ほどのパートでジェシーの心については解説しますが、ジョニー目線から描かれるジェシーは「普通の子ども」ではありません。
では「普通の子ども」とはなんなのか?
それは、大人から見えた「普通の子ども」であり、いわゆる「言うことを聞いてくれる子ども」なわけです。
この物語は、ジョニーとジェシーの対話を通して、ジョニーの中の「普通の子ども」という考え方が徐々に変わって行く様子が描かれています。
母親の苦悩
本作品を語る上で、欠かせない存在がジェシーの母であるヴィヴの存在です。
彼女は母としてジェシーに大きな愛情を注ぎながらも、別の苦悩を抱えている様が描かれています。
夫のポールは精神病を患っており、そのことによる看病をしなければなりません。
ヴィヴとジョニーは、一年前に認知症の母を亡くしており、そのことで確執を生んでしまっていました。
認知症の母が「免許の更新に行く」と言った際に、ジョニーは受け入れて服を着せてあげるのですが、ヴィヴは「いちいちそんなことを聞いていたらキリがない」とジョニーを攻めます。
母の看病、夫の看病を抱えたヴィヴはここ数年はずっと精神的に参っているはずであるのに、ジェシーにとっては「たった1人の母親」であることに変わりはありません。
すなわち子どもの目線から見た「母親」を務め上げる必要があり、それがいかに母にとって理不尽なことかが訴えられていました。
本作品の中で、あるエッセイが紹介されています。
その内容とは、『世の中のあらゆる問題は、当然に母親が解決すべきことである。なぜ、物事を明るく、純粋無垢に安全なものをにすることが、母親の仕事なのだろうか?』いったようなものです。
本作品は子どもとしての側面を描くだけでなく、母親としての側面も非常に繊細に描いています。
母親は「責任」と「理不尽」の象徴とも呼べる存在であり、母親である以上、当然のように課されてきたことでした。
ヴィヴにとっては夫のポールの面倒を見るだけで精一杯であるのに、ジェシーからは「僕のことなんて好きじゃないんだ」と言われてしまいます。
家族という幸せの形を選んだ途端に課される「責任」と「理不尽」が母親を苦しめ、そしてそれは子どもにも波及するということです。
ジョニーがその「母親の役割」に参加することで、少しずつ理解されにくい側面に寄り添い、その困難を兄妹で分かち合って行くという素敵な内容にもなっていますね。
ジェシーの訴え
さあ、本作品のメインともなるジェシーの訴えです。
ジェシーは自由奔放でジョニーを困らせていましたが、果たしてそれは「ただ大人を困らせる子ども」として受け取って良いものでしょうか?
本作品を観た人ならばそんなことがないことは分かりきっていると思いますが・・・
作品内でも語られていますが、ジェシーはしっかり藻ごとを考えることができた賢い“ひとりの人間”です。
だからこそ、分別のついた子であり、よくよく観返すと、ジョニー以外の大人には大した迷惑はかけていないんですよね。
ジョニーだから言えること、できることを考えてやっています。
そんなジェシーの現在が形成されているのは、幼少期の家族の物語です。
ここでもある本の内容が紹介されていましたね。
そこでは、双極性障害を持った親が描かれており、すなわち父のポールと楽しい思い出もあれば、怖くて辛い思い出もあるということになります。
そして、父もいなくなり、母も看病に行き、いなくなってしまったジェシーにとって、幸せの象徴である家族がなくなってしまっていました。
家族というのは、ある意味では「普通」のことであり、ジェシーにとっては「普通」がなくなってしまったのですね。
そして、これまで純粋な心でできていた「表現」はいつしか「訴え」に変わっていってしまいました。
ぼくのこと見えている?ぼくのこと覚えている?
親のいない子どものふりをしている姿がまさにそのことを物語っているように感じられます。
そんな訴えから起こる言動は大人を困らせてしまいますが、ジェシーは自分自身でもその気持ちがなんなのか、はっきりわかっていない描写も見えています。
そのことを解放する方法もわからず、ずっと彷徨っているのかもしれませんね。
ジョニーとジェシーの友情
母親として「責任」と「理不尽」を背負うヴィヴと、子どもとして自身の訴えを抱えているジェシーの間に現れたのがジョニーという第三者です。
ジョニーは、ヴィヴの代わりに親として「子育て」を経験し、一方でジェシーの普通ではない「訴え」を受け入れ、解放させる役割をになっています。
普通ではないことに戸惑い、大人としての常識を押し付けようとしてしまうジョニーに対して相容れないジェシーでしたが、そんなジェシーのことを決して諦めず、ジョニー自身も大きく成長していきました。
プロレスをするシーンなんかは最高でしたね!
ある時、ジェシーは「誰にも僕のことはわかるはずがないんだ」と言いますが、ジョニーはジェシーのことをわかろうと努めています。
このことの本質は、「子どもの全てを理解すること」ではなく、「自分の価値観にない他者の言動を受け入れようとすること」ではないでしょうか?
もちろん他者のことを100%理解するのは不可能です。
では、理解できなかったからといって無視する、あるいは自分の価値観を押し付けるべきでしょうか?
そうではありませんよね。
たとえ理解できなかったとしても、受け入れ、寄り添い、真摯に向き合って行くことで、結びつきが強くなっていくはずです。
ジョニーはジェシーが押し込めていた感情を解放させ、結びつきを強くした2人はお互いを「親友」と呼び、「この出来事を忘れない」と言い合っていました。
2人で叫び合うシーンは最高でした!!
とくに本作品では、「子どもと大人」という対照的な関係であるからこそ、「自分の価値観にない他者の言動を受け入れようとすること」が必要になります。
そして、それは大人の役割に当たり、その行為を「子育て」と呼びます。
大人が子どもたちの未来を作っているかもしれませんが、それ以上に子どもも自分自身の未来をつくろうとしていることを忘れてはいけませんね。
ジョニーは本作品を通して、親と子どものどちらの側面にも歩み寄ることができ、1人の人間としても大きく成長していました。
未成年の主張
ジェシーに代表される未成年の子どもたちですが、本作品ではジョニーが未成年の少年少女にインタビューをする姿が描かれています。
そこでは、「どんな未来になると思う?」や「君の街はどう変わる?」や「スパーパワーがあったら何に使う?」とさまざまな質問をぶつけます。
子どもたちは自身の言葉で立派に答えていました。
本作品で描かれている子どもというのは、「想像力」と「表現力」と「エネルギー」を持った存在となっていました。
インタビューの場面はドキュメンタリーのように見え、それぞれが自身の言葉で話しているようでしたね
それを踏まえると、大人が想像している以上に子どもたちは自分の思いを言葉にすることができ、さらには自分自身でこの先のことを想像できているのです。
そして、自ら行動できるエネルギーを兼ね備えており、時にそのエネルギーは大人を凌駕することもあるかもしれません。
だからこそ、本作品を通して、子どもへの可能性をどこまで尊重できるのか?ということも一つの大きなメッセージと読み取れます。
大人になっていけば行くほど、経験値が上がり、処世術に長けていきますが、一方で懸念事項が増えていきますよね。
大人になったからできなくなったこと、諦めてしまったことがたくさんあると思います。
そして、親という立場になった時、それは子どもが受け継いでいくものになってしまいます。
徐々に大人になるにつれて、自身の親と同じように未来を憂いてしまう子どもたちが増えていきますよね。
今子ども達が持っている可能性が大人の抱く懸念に押しつぶされず、先の未来(カモン カモン)へ進んでいける世界になっていってほしい、というメッセージのようにも感じ取れました。
各レビューサイトでの評価
本作品の世間の反応や評価について紹介します。
それぞれ点数と主なレビューを3件ずつ紹介していますので、気になる方はぜひリンク先をチェックしてみてください!
Filmarksの使い方については以下の記事を参考になります。
Filmarks
・大切な人と対話したくなるような作品だった
・ジョニーとジェシーが心を通わせていく時間が愛おしく感じる
・大人と子どもの間にある不確かな親密さと、それを圧倒的に包み込む母親の存在の大きさと、母親が担う責任と苦悩の重さが感じられる偉大な作品
Filmarks:『カモン カモン』映画情報・感想・評価ページ(https://filmarks.com/movies/87570)
IMDb
・登場人物の生活に近づけると同時に、現代アメリカの広大な視点を与えてくれる作品
・感動的で、人生と芸術が融合したものであり、旅の中で人が繋がり、学び、経験を積むことが証明されている
・ストーリーに説得力があるだけでなく、とても自然に感じられる内容だった
IMDb 『C’mon C’mon』(https://www.imdb.com/title/tt10986222/)
Rotten Tomatoes
・優しく愛に満ちたマイク・ミルズ監督の最高傑作だ
・人間関係に私たちを集中させるために、派手さや感傷的な感覚を抑え、絶妙な調和が取れている
・マイク・ミルズ監督の自然な演出とホアキン・フェニックスの穏やかな演技によって非常に感動的なものとなっている
Rotten Tomates 『C’mon C’mon』(https://www.rottentomatoes.com/m/cmon_cmon)
まとめ
この記事では、映画『カモン カモン』の概要・あらすじを紹介するとともに、5つのポイントでネタバレ解説を行いました。
- ジョニーはジェシーに戸惑っていたが、関わりを通して歩み寄ることができた
- ヴィヴには母親としての「責任」と「理不尽」が付き纏っていたが、ジョニーが分かち合うことができた
- 「幸せな家族=普通」を亡くしたジェシーは、いつしか自分の中に「訴え」を押し込めるようになっていた
- ジョニーはジェシーの言動を受け入れ、押し込めていた感情を解放させることで「親友」となった
- 可能性のある象徴である「子ども」と懸念を抱く象徴である「大人」
その懸念に押しつぶされず、子どもの可能性を尊重することが大切である
とても心温まる物語で、ジョニーの成長とジェシーとの友情が素敵でしたね。
さらに、親としての視点と子どもの視点の両方が描かれ、そのどちらもジョニーの経験を通して本作品メッセージが伝わってきます。
簡単に語ることの難しい話題でもありますが、本作品を通して、より多くの人が他者に歩み寄る社会になれたらいいですね。