映画『ウーマン・トーキング 私たちの選択』は観ましたか?
アカデミー賞脚色賞を受賞し、大きな話題を集めた作品です。
ボリビアのあるキリスト教一派の村で実際に起こった性暴力事件をもとにしており、自身の命をかけた女性たちの選択を迫る様子が描かれています。
この記事では、映画『ウーマン・トーキング 私たちの選択』の概要・あらすじを紹介するとともに、主に5つのポイントでネタバレ解説を行なっています。
- 彼女たち「メノナイト」とは?
- 見過ごされてきた性暴力
- 選択を迫られた彼女たち
- 初めての意思決定
- 「逃げる」 それは新たなる希望
※ネタバレを含みますので、あらかじめご注意ください。
主に登場人物の会話の様子が描かれており、全体的に静かな雰囲気ですが、重く胸に響くような作品になっていますので、ぜひチェックしてみてください!
それでは、いってましょう!


概要

映画『ウーマン・トーキング』は2023年6月に日本で公開されたアメリカのドラマ映画です。
プロデューサーを務めたのは、『スリー・ビルボード』や『ノマドランド』でアカデミー賞主演女優賞を受賞したフランシス・マクドーマンドです。
本作品の原作の小説を読んだ彼女が感銘を打たれ、映像化に踏み切ったそうですね。
監督を務めるのは、『ドーン・オブ・ザ・デッド』や『ミスター・ノーバディ』に女優として出演しており、監督としても『アウェイ・フロム・ハー 君を想う』や『テイク・ディス・ワルツ』などを手がけたサラ・ポーリーです。
監督/脚本 | サラ・ポーリー |
出演 | ルーニー・マーラ クレア・フォイ ジェシー・バックリー ベン・ウィショー フランシス・マクドーマンド |
時間 | 104分 |
ジャンル | ドラマ |
制作 | アメリカ |
公開 | 2023年6月2日 |
予告動画
あらすじ
2010年、ボリビアのキリスト教一派の「メノナイト」が暮らす村で、日常的に行われていた女性への性暴力事件により、ある男性が逮捕される
保釈のために男性たちが村を出た隙に、残された女性たちはこの事件をきっかけにある選択を迫られた
それは「赦す」、「村に残って闘う」、「村から出ていく」という3択であり、村の女性たちの投票をもとに議論が行われていく
登場人物/キャスト
ネタバレ解説を行う前に、本作品の登場人物・キャストを紹介します。
それぞれの想いがあり、立場があり、そのことから彼女たちの議論が進んでいくため、事前にしっかりチェックしておくことをおすすめします!
オーナ/ルーニー・マーラ

アガタ家の長女
冷静で知性があるため、議論が進んでいく中で重要な舵取りを行なっている
自身も性暴力の被害に遭っており、妊娠している
1985年生まれ、アメリカ出身の女優
『ドラゴン・タトゥーの女』や『キャロル』でアカデミー賞にノミネートされており、カンヌ国際映画祭では女優賞を受賞した経歴を持つ
サロメ/クレア・フォイ

アガタ家の次女
自身の子どもを守ために、闘う意志をを強く見せている
1984年生まれ、イギリス出身の女優
映画だけでなくドラマでも活躍しており、『ウルフ・ホール』や『ザ・クラウン』で英国アカデミー賞やゴールデングローブ賞にノミネートされた経歴を持つ
オーガスト/ベン・ウィショー

議論の書記を行う教師
昔一家が村か追放されており、性暴力の問題に加えて女性の人権がない村の風潮に疑問を抱いている
1980年生まれ、イギリス出身の俳優
映画としては『パフューム ある人殺しの物語』や『007 スカイフォール』に出演しており、ドラマでは『英国スキャンダル〜セックスと陰謀のソープ事件』でゴールデングローブ賞助演男優賞を受賞した経歴を持つ
スカーフェイス/フランシス・マクドーマンド

スカーフェイス家の最年長
キリスト教の教えである「赦し」を尊重しており、今回の事件においても荒立てることなく、村に残り男性たちを赦す姿勢を見せている
1957年生まれ、アメリカ出身の女優
『ファーゴ』、『スリービルボード』、『ノマドランド』でアカデミー賞主演女優賞を3ど受賞した経歴を持つ
ネタバレ解説

映画『ウーマン・トーキング 私たちの選択』のネタバレ解説を行います。
主に5つのポイントから解説しており、本作品内では語られない彼女たちを表す「メノナイト」についても詳しく解説していきます。
- 彼女たち「メノナイト」とは?
- 見過ごされてきた性暴力
- 選択を迫られた彼女たち
- 初めての意思決定
- 「逃げる」 それは新たなる希望
※ネタバレを含みますので、あらかじめご注意ください。また、ストーリーの全てをおさらいしているわけではなく、ポイントとなる点をピックアップして紹介しています。
彼女たち「メノナイト」とは?
本作品は、2010年のボリビアのある村の様子を描いた作品です。
そこで過ごす人たちは「メノナイト」と呼ばれており、「メノナイト」はキリスト教アナバプテストの一派です。
キリスト教の中でもプロテスタントの一派であり、そこからさらに分派し、再洗礼派と呼ばれる自由意志による信仰(幼児洗礼の否定、成人洗礼)や平和主義を提唱しています。
世界には150万人以上も存在している「メノナイト」は、その中にもさまざまな差はあるものの、多くの人は電気や自動車などの近代技術を使用していません。
キリスト教の中でも特に聖書を重んじている彼女たちは、聖書に記載されていることを信じて実践しようと務めてきました。
そのため、自分たちが信じているもの以外のものを触れないために、上記のように近代技術をしようしていないわけですね。

もちろん携帯電話やテレビも使ってないです!
服装は伝統的に質素なものを身に纏っており、学校には通わず独自の教育を受けています。
独自の教育を受けてきていることから、女性は文字の読み書きができません。
なぜ、女性は読み書きが教えられないのでしょうか?
必要とされていないからです。
時に、聖書は女性蔑視であると批判されてしまうこともありますが、メノナイトは完全に家父長制を採用しており、女性は男性を支えるために生活をしているので、物の読み書きは必要ないのです。
女性は考えたり、意見をすることもしません。
それも必要とされていないからです。
男性が豊かに暮らすために、彼女たちは日夜生活をしているのですね。
そして、その歴史と宗教観というのが仇となり、後世に刻まれるべき事件が起こってしまいます。
見過ごされてきた性暴力
本作品の舞台となる村では、日常的に女性に対する性暴力が行われてきました。
それは、女性を催眠スプレーで眠らせ、強姦するというものです。



最低だね
女性たちは朝目覚めると布団が血で汚れており、それに対して疑問を抱くのですが、教育を受けてきていない彼女たちには原因がわかりません。
1人ならまだしも、村の多くの女性が同じ症状を起こしていました。
村の男性に聞いてみても「悪魔の仕業では?」とか「気のせいでは?」と言われてしまい、彼女たちは信じるしかなかったのです。
しかし、ある日女性が襲われているところを別の女性が発見し、事の真相が全て明らかになります。
その男性は逮捕されたのですが、男性たちは徒党を組み、加害男性を釈放させるために保釈金を集めていました。
加害男性が勾留されているところに男性たちが出向き、二日ほど村から男性たちがいなくなります。
そして、この男性のいない二日間、真相を知ってしまった彼女たちはある行動を起こしました。
誰しも、本能的に受け入れられないことがあると思いますが、それは経験や知識によるものです。
例えば、辛いものが苦手であったり、怖いものが苦手だったり、、、
彼女たちは経験がないだけでなく、それを教えられていないのですから、わかるはずもありません。
男性たちは、女性が教育を受けていないことを利用して悪行に走っていたわけですね。
選択を迫られた彼女たち
村の女性たちが起こした行動というのは、「投票」です。
今回の事件を受けて女性たちが取るべき行動の候補として挙げられたのは、以下の3つです。
- 赦すこと
- 村に残って闘うこと
- 村から出て行くこと
この3つの選択肢からそれぞれ投票して、各意見を代表して3つの家族が議論を行い最終決定を行うことになりました。
まず、「赦すこと」は最も票数が少なく、「村に残って闘うこと」と「村から出ていくこと」が同数となりました。
3つの家族が集められ議論が行われますが、「赦すこと」を選択したスカーフェイス(フランシス・マクドーマンド)は、村に残って今まで通り生活することを主張します。
この「赦す」という考えは、聖書における重要な考え方であり、このことに背けば死後天国に行くことができなくなると考えられています。
だからこそ「赦すことが大切である」と主張するのですが、「死後の世界ではなく、今生きている世界のことを考えなければならない」という反論により、スカーフェイスは議論から離脱しました。
本作品でも考えさせられる言葉として「無理矢理赦すことは、本当の赦しなのか?」というものがあります。
聖書を尊重しているメノナイトの彼女たちだからこそ、「赦す」という行為を誰よりも重んじています。
その「赦す」という行為は、「許可」や「水に流す」という意味とは同義ではなく、人が犯した罪を悔い改め、再出発することを助けるようなことなのではないでしょうか?
初めての意思決定
「闘う」と「去る」という選択が同数となり、さらに議論は加速します。
アガタ家の次女であるサロメ(クレア・フォイ)は断固として闘う姿勢を見せていました。
これまで男性に搾取されてきたことに対して怒りが収まらず、「今立ち上がらなくてどうするのだ」というのが彼女の主張です。
さらに、「村から出ていくこと」は「逃げること」であり、「なぜ被害者である私たちが逃げなくてはならないのか?」という最もな考えでもあります。
しかし、「闘うことはできるのか?」という問題を無視することはできません。
一方で、「逃げる」ということに対しても、逃げたとしてどこにいくのか?やそれこそ信仰に背いているのではないか?という問題も出てきました。
アガタ家の長女のオーナ(ルーニー・マーラ)は、「むしろ男性に村から出ていってもらったら?」と言います。
今回の選択をすることで本当に実現したいことは何なのか?
それは、今回の事件が解決されることだけではなく、未来の子どもたちのためにもこの選択から新しい考え方を作っていくことなのではないか?
そうオーナは話しますが、「あなた夢想家か何か?」と揶揄われます。
なかなか議論はまとまらず、村の教師であるオーガスト(ベン・ウィショー)が書記として、それぞれのメリット・デメリットなどをまとめていきます。
ここで大切なのは、「どの選択が正しいか」ではなく、「自らの意思で決定ができるのか?」という点です。
彼女たちは今まで自由を与えられず、意思というものを持ったことがありませんでした。
自分たちの命、この人生での生きていく道を探るために、これまでに経験のない「選択」というとても大切な作業を行なっていっているのです。
「逃げる」 それは新たなる希望
与えられた二日間という猶予も残りわずかとなりました。
サロメの「闘う」という選択に対して、メノナイトの考えは「平和主義」であるため、闘って殺してしまう結末は信仰に背いてしまいます。
それに対して、「逃げる」という選択は、一見信仰に背いているように見えるけれども、それは「赦す」ということに繋がっているのだとアガタは話しました。
村から去るという選択をした彼女たちは旅立つ準備をしますが、子ども達が残っています。
子どもたちの中には男も含まれており、男の子を連れて行くと、その子どもたちも同じような男たちに育ってしまうのではないか?という議論も起こりますが、任意で連れて行くことでまとまりました。
そうして迎えた出発の朝、オーガストは今回の議論の資料とともに村に残り、彼女たちを見守っています。
「赦すこと」を選択したスカーフェイスは村に残りましたが、娘のアナとヘレナは彼女たちに加わりみんなで村を出て行くのでした。
「赦す」ということは、「水に流す」のではなく「再出発の手助けをすること」だと前述しました。
彼女たちが村を去り、オーガストが村の少年たちに教育していくことで同じ歴史が起こらなくなるかもしれません。
また、彼女たちが連れて行く男のたちもこれまでの村で行われた悪行に染まることなく、新たな価値観のもとで生きていくことになるかと思われます。
そういう意味では、未来のための「去る」という選択が、巡り巡って「赦す」という行為に繋がっているのかもしれませんね。
各レビューサイトでの評価


本作品の世間の反応や評価について紹介します。
それぞれ点数と主なレビューを3件ずつ紹介していますので、気になる方はぜひリンク先をチェックしてみてください!
Filmarksの使い方については以下の記事を参考になります。


Filmarks
・自分で考えて自分で決めていく姿から、困難と希望のどちらも感じられたのでよかった!
・あらゆるものを奪われた彼女たちの唯一の手段である「対話」であり、それぞれの強い思いを持つ姿に胸が打たれた
・本作品で触れられている問題はほんの一部で、このほかにも一緒に考えないといけない問題がたくさんあるのではないか?と感じざるを得なかった
Filmarks:『ウーマン・トーキング 私たちの選択』映画情報・感想・評価ページ(https://filmarks.com/movies/99935)
IMDb
・白熱する会話、不穏なストーリー、力強い結末、全て通して素晴らしい作品
・キャラクター全員思いを持っていて、それが交錯する姿が非常に見応えがあった
・彼女たちが抱いた覚悟には、相当高い価値があるものなのではないか?
IMDb 『Women Talking』(https://www.imdb.com/title/tt19770238/)
Rotten Tomatoes
・言葉の力と、抑圧を振り払って選択した彼女たちを劇的に表現している
・痛みと怒りの間には、広くて遠くまで届く視野を持つことが大切だと学んだ
・タフな精神を持ちながら、繊細な模様をしっかり映している
Rotten Tomates 『Women Talking』(https://www.rottentomatoes.com/m/women_talking)
アカデミー賞 脚色賞受賞!
本作品は、2023年第95回アカデミー賞において、見事に脚色賞を受賞しました!
作品賞にもノミネートされていましたね。
また、アカデミー賞だけでなく、インディペンデント・スピリット賞や放送批評家協会賞でも脚色賞などを受賞しています。
いかに本作品が世界的に評価されているかを物語った結果となりましたが、本作品を通してサラ・ポーリー監督は以下のようなことをメッセージとして残しています。
今の時代は多くの間違ったことがまかり通っている。
また、壊さなければならないこと、取り壊さなければならないことが多くある。
そういった意味では、この作品はとても意味のあるものである。
アカデミー賞などの場で評価される作品は、社会的なメッセージ性が高いものが多いですが、本作品は特にその性質が強いように感じます。
本作品は実話をもとにした作品ですが、世の中にはこのような酷い話が存在していますが、誰の目にも触れられないものも多くあるのではないでしょうか?
そういった意味では、アカデミー賞を通して、本作品やこのような歴史的に知られるべきことが多くの人に届くのはとても素晴らしいことですね。
このように女性たちの権利が取り沙汰された作品として、『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』も非常におすすめの作品です


まとめ
この記事では、映画『ウーマン・トーキング 私たちの選択』の概要・あらすじを紹介するとともに、5つのポイントでネタバレ解説を行いました。
- メノナイトにおいて、女性には自由に意思決定ができなかった
- 教育を受けていない女性たちは、自身が性暴力を振るわれていることがわからなかった
- 「赦す」ことは「本当に赦しているのか?」という考えもあり、選択肢から消えた
- 意思決定をしたことがない女性たちには、選択の難しさがあった
- 「逃げる」 ことは新たなる希望を生むということでもあった
実話ということに驚きですが、世間と隔離されて生きている彼女たちが初めて自らのために行動を起こす、というのはとても興味深いものがありました。
キリスト教の考えをもとにしているため、キリスト教になかなか馴染みのない日本では十分に理解ができないものかもしれませんが、「赦すとはどういうことか?」という議論においては、どの世界にも通づることなのではないでしょうか?