映画『バビロン』はご覧になりましたか?
2023年2月10日に日本で公開されたハリウッド映画で、ゴールデングローブ賞の受賞やアカデミー賞のノミネートなど、今世界でも注目されている作品です。
あのブラット・ピットが出演していたり、『ラ・ラ・ランド』の監督作品でもあったりするため、内容がとても気になる作品ですよね!
本記事では、映画『バビロン』のあらすじ、レビュー、解説を紹介するとともに、
- 映画の歴史の転換期
- それぞれの人物のドラマ
- 本作品で伝えたかったメッセージ
に焦点をあてて、考察をしています。
本作品を深く知り、より楽しめるきっかけになっていただけたら幸いです。
今年のアカデミー賞のことも解説していますので、そちらもチェックしてみてください!
それでは、いってみましょう!
概要
出典:映画『バビロン』公式サイト(https://babylon-movie.jp/)
『セッション』や『ラ・ラ・ランド』で、当時の映画界を席巻した大人気作品を輩出したデイミアン・チャゼル監督の最新作です。
約95年前のアメリカ映画界を舞台にしており、サイレント(無声)映画からトーキー(発声)映画への移り変わりを描き、欲望と混乱に包まれた世界を、デイミアン・チャゼル監督作品ならではの圧倒的なサウンドが乗っかった超大作に仕上がっています。
その上映時間はなんと188分(3時間8分)!
ハリウッドの華やかさを象徴するかのような衣装や美術、そして気持ちの高揚を抑えられないほどのサウンドは大きな注目を集め、2023年ゴールデングローブ賞では作曲賞を受賞、そしてアカデミー賞では3部門にノミネートされております!
予告動画
あらすじ
1926年、アメリカ・ロサンゼルス
映画スターなどが集まるパーティで映画制作を夢見るマニー(ディエゴ・カルバ)とハリウッドの大女優になることを夢見るネリー(マーゴット・ロビー)が出会い、意気投合する
たまたまパーティに居合わせたために、ネリーは作品の代役として抜擢されることになり、才能を遺憾無く発揮し、瞬く間にスターの階段を駆け上がっていく
一方、映画界の大スターとして君臨していたジャック(ブラッド・ピット)もそのパーティに居合わせており、マニーを自身のスタッフとして迎え入れる
こうして、それぞれが映画界で存在感をしてしていく中、時代の転換期を迎え、歯車が段々と狂っていく
レビュー・解説(ネタバレあり)
それでは本編のレビュー、解説にいきましょう!
改めて本作品の解説ポイントは以下のとおりです。
- 映画の歴史の転換期
- それぞれの人物のドラマ
- 本作品で伝えたかったメッセージ
それぞれ詳細にまとめていますので、ぜひ参考にしてみてください!
※ここからはネタバレを含みますので、あらかじめご了承ください。
①変わりゆく時代に取り残されるスターたち
1920年代後半、映画界はサイレント映画からトーキー映画に移り変わっていきます。
その反動は想像を超えるものであり、ジャックやネリーはその変化になかなか対応ができませんでした。
ジャックは今まで意識したことのなかったセリフの発声を練習し、その最中ブロードウェイの役者でもあった妻にダメ出しをされてしまいます。
試行錯誤して臨んだものの、映画館では観客に笑われてしまう始末。
ネリーもセリフを覚えるのに苦労します。
さらにはトーキーになったことによるカメラ・音声への意識による弊害、自身の声質への悩みなど、周囲の酷評を耳にしながら、自分を押し殺してもがき苦しみます。
ついていけなかった二人はサイレント映画の時代に取り残されてしまい、その過去の栄光にすがりつき、時代の犠牲者となってしまいました。
結果として、ジャックは自殺、ネリーは多額の借金と散々な結果に終わってしまいます。
「昔はよかった」
こんなありきたりな言葉が今にも聞こえてきそうでしたが、どの時代にも自らを変える勇気を持ち、新しい時代に対応する力が必要なのでしょうね。
②ネリーが姿を消したのは?
マニーは、出会った当初からネリーへ抱いていた恋心を成就させ、結婚を誓い合いました。
命を狙われている二人でしたが、アメリカからメキシコへ逃げ出そうしている最中に、マニーはついに命を狙う者と出くわしてしまいます。
マニーを待っている間、ネリーは陽気な様子で暗闇に一人消えていくのでした。
なぜ、ネリーは愛を誓い合ったマニーを置いて消えていってしまったのか?
これは色々な考えがあると思いますが、最も考えられる理由としては、「まだアメリカに未練があった」というとこではないでしょうか。
ハリウッドの大女優になることを夢見て、なりもの入りで入った映画の世界で瞬く間にスターになったネリーですが、まさに身から出た錆で、その繁栄はすぐに終わりを遂げてしまいました。
一度人生の頂点にまで達した彼女は、なかなかその未練を捨てきることはできなかったのでしょう。
自ら堕ちていった闇の中を進み、再び彼女に陽が当たることを夢見たのではないでしょうか。
他には、その直前のシーンで、「私はここで終わりよ、これ以上は迷惑はかけられない」とマニーに涙ながらに話しており、マニーにこれ以上迷惑をかけたくなかったから自ら消えたのでは?という考えもできます。
しかしながら、8万ドルの負債を背負い、それをマニーに肩代わりさせる時も、あれほど泣いていたのに何事もなかったようにドラッグをしている様子をみると、「迷惑をかけたくないから」という理由は考えにくように思います。
③マニーが涙を流した理由
マニーは30年ぶりに昔働いていた映画スタジオに訪れ、その帰りに映画館で映画を見るシーンがありますが、そこでマニーは涙しています。
特に感動するシーンでもなく、周りの観客はそれぞれの喜怒哀楽を浮かべ、まさに映画の娯楽性を感じさせるシーンになっています。
そこでマニーが涙したのは、マニーが映画界で生きてきた経験も映画界の重要な歴史の一部になっていたと感じたからではないかと考えます。
直後のシーンで、マニーのこれまでの過去が一気にダイジェストとして流れるのですが、まさに激動そのもので、映画界の繁栄と混沌が全て含まれているものでした。
「そういえば、こんなこともあったなあ」と感傷に浸り、自身のこれまでに誇りを感じられた瞬間です。
映画館では、『雨に唄えば』が上映されており、そこではサイレントからトーキーへの移り変わりの苦悩が描かれていました。
その後、私たちの知っているような作品が映し出され、映画界全体の歴史が感じられるシーンに移り変わります。
映画ファン大興奮の一幕ですが、まさにマニーが過ごした世界の歴史も、今の映画界の歴史の一部でもあり、巡り巡って重要な一つのピースになっていたのです。
ジャックもネリーも同様です。
二人とも確固たる地位から転落してしまいましたが、映画界の歴史において重要なピースの一つとして、現代の人々にもしっかり届いていたのです。
④『バビロン』というタイトルに含まれたメッセージ
本作品のタイトルでもある『バビロン』は、紀元前6世紀頃に繁栄を迎えた新バビロニア帝国首都であるバビロンをモデルにしています。
ユダ王国を滅ぼし、ユダヤ人を連行したという、いわゆる「バビロン捕囚」という憎き歴史として旧約聖書に記されている“バビロン”という名前を、本作品では欲望や混乱の象徴として表しています。
冒頭の欲望に満ちた乱痴気パーティや、初期の映画界の混乱は、まさにそれを示していますね。
エキストラとは出演料で揉め、撮影中に本当に人が死んだり、カメラが馬に壊されたり、撮影現場では火事が起こったり、、、
主演女優を押し退け自らがのし上がろうとしたり、作品の成功のために黒人の肌をさらに黒く塗らせたり、、、
欲望と混乱で溢れた初期の映画界は、次第にトーキーに取って代わられ、衰退していきます。
そう、かつての古代都市バビロンが新たな勢力に征服されたように。
しかし、それも重要な歴史の一部なのです。
古代都市バビロンが世界史の教科書に登場するように、映画の教科書には必ずサイレント映画のことが記されています。
そこに決して目を背けず、「その歴史が今に繋がっている」という映画へのリスペクトがメッセージとして込められている作品になっています。
アカデミー賞3部門ノミネート!
2023年のアカデミー賞では、
- 作曲賞
- 美術賞
- 衣装デザイン賞
の3部門にノミネートされています。
当時の時代背景を感じさせるジャスミュージックを全面に押し出し、なおかつところどころ臨場感と緊張を織り交ぜた効果的なサウンドトラックは、まさにデイミアン・チャゼル監督作品の真髄とも言えますね。
また、華やかなハリウッドの世界を忠実に再現した衣装や美術にもこだわりが見られ、『ラ・ラ・ランド』でも受賞した衣装デザイン賞の受賞への期待も高まります。
作品賞を含む主要8部門の受賞も期待されていましたが、惜しくもノミネートとはなりませんでした。
作品賞ももちろんですが、マーゴット・ロビーの主演女優賞やディエゴ・カルバの助演男優賞も候補としてあがっていたので、ノミネートされなかったのは少し残念ですね。
2023年アカデミー賞の主要8部門のノミネート一覧は以下の記事でまとめています。
ぜひご覧ください。

まとめ
今回の記事では、映画『バビロン』のあらすじ、レビュー、解説を紹介しました。
より深く作品を知る機会になりましたか?
ポイントをまとめると
- サイレントからトーキーへの転換期は欲望にまみれ大混乱だった
- 未練と過去の栄光のせいで、時代の犠牲者となった
- 100年前の歴史が現在の映画にも繋がっている
というようになりました。
映画の歴史って本当に長くて、とてつもなく深い歴史を持っています。
本作品では、映画の歴史へのリスペクトが感じられ、映画好きにはたまらない一作になっていましたね。
今、まさに映画の転換期にあると思います。
コロナの流行により、NetflixなどのVOD(ビデオ・オン・デマンド)サービスが台頭してきており、映画館ではなく、家で映画を見る、という文化ができつつあります。
時代の流れであり、それは素晴らしいことでもあると思うのですが、映画業界でもこの時代の流れに影響を受けた部分はあるのでしょう。
「そんな歴史があったんんだ」と、きっとまた新たな映画作品を通して歴史を知ることができる機会が訪れるはずです。
その歴史を作るのは、映画を制作している関係者ももちろんですが、映画を愛し、映画とともに生きていく私たちの存在にもかかっていると思います。
私たちも歴史を作っていく一員であることを誇りに思いながら生きていきましょう。