映画『アーティスト』はご覧になりましたか?
最近ではなかなか見なくなったサイレント(無声)映画作品として、公開当初大きな注目を集めた作品です。
映画への愛が詰まった本作品は、2012年のアカデミー賞で作品賞を含む5部門を受賞しました。
本記事では、映画『アーティスト』のあらすじ・レビュー・解説を紹介するとともに
- 映画の歴史について
- かつてのスターはなぜ堕ちていくのか
- 本作品が示す“愛”とは
という点に焦点をあてて、考察をしています。
本作品を見たことのある人も、これから見る予定の人も、作品をより深く知るきっかけにしてもらえたら嬉しいです!
当時のアカデミー賞についても解説していますので、ぜひチェックしてみてください。
概要
出典:https://video.unext.jp/title/SID0012733
映画『アーティスト』は、2011年に公開された作品です。
現代の映画作品ではなかなか見ることのないサイレント、そして白黒映画であり、一昔前の映画を楽しめる作品になっています。
さらに、さまざまな映画のオマージュも見られ、映画への愛が詰まった作品ですので、昔の映画などが好きな人にはとてもオススメです!
また、2012年アカデミー賞では、作品賞を含む最多タイの5部門を受賞し、その他の映画賞でも評価を集めました。
予告動画
あらすじ
1927年のハリウッド
当時のサイレント映画界のスターとして君臨していたジョージ・ヴァレンティン
その人気は凄まじく、劇場は連日ファンで溢れていた
そのうちの一人であるぺピー・ミラーは女優を志しており、ジョージとの出会いから女優としての才能を発揮し、一気にスターへの階段を駆け上がる
時代はサイレント映画からトーキー映画に移り変わっていき、プライドと誇りからサイレント映画にこだわり続けたジョージは時代についていけず、一気に転落してしまった
落ちぶれてしまったジョージとスター女優となったぺピーのそれぞれの運命が再び交わり合っていく
レビュー・解説(ネタバレあり)
それでは、本作品のレビュー・解説にいきましょう!
改めて本作品のポイントは以下のとおりです。
- 映画の歴史について
- かつてのスターはなぜ堕ちていくのか
- 本作品が示す“愛”とは
それぞれ詳細に紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください!
※ここからはネタバレを含もます。あらかじめご了承ください。
①サイレント映画からトーキー映画への移り変わり
1920年代後半、映画界はサイレントからトーキーへと移り変わっていきました。
これは当時、革命のような出来事で、現代の映画を語るには、この時代がとても重要な歴史となっていると言っても過言ではありません。
これまではサイレント(無声)であったため、撮影中でも融通の効くことが多かったのですが、トーキー(有声)となり、撮影時の制限が増えていくことになります。
その黎明期は、手探りで撮影を進めていたため、立ち位置やマイクの音量調整など非常に苦労していたそうですね。
過去の作品では、名作『雨に唄えば』でこの様子が描かれており、さらには2023年2月に公開された『バビロン』でも同様の時期が描かれています。
当時はすんなり全ての映画がトーキーに移行したかというと、全くそんなことはなく、あのサイレント映画の王様とも言えるチャップリンは、1930年代に入っても『街の灯』や『モダン・タイムス』はサイレントで制作されました。
チャップリンが初めてトーキーで制作したのは1940年の『独裁者』になります。
日本でもトーキーへの対応は遅れ、トーキーが世界のスタンダードとなるのはなかなか時間を要しました。
②取り残された昔のスター
トーキーへの移り変わりでジョージとぺピーの人生は全く逆の方向へと進んでいきました。
ジョージはサイレントへの誇りとプライドが捨てきれず、トーキーが流行り始めてもサイレント映画『愛の涙』を自ら監督を務め制作します。
しかし、同日公開のぺピーが主演を務めたトーキー映画に観客は奪われ、大失敗に終わります。
『愛の涙』は、主人公演じるジョージが砂の中に溺れていく、というラストシーンで終えるのですが、まさにジョージの現状そのものを表しているような形となってしまっていました。
全てを失ったジョージは失意のまま、ついには自殺を図ってしまいます。
居心地のいい場所から、新しい場所に移るのはなかなか簡単なことではありません。
これはどの時代でも見られることです。
・IT化が進んでいるのに、なかなか紙からウェブに移行できない会社や上司
・LGBTへの理解を示さず差別的な発言をして炎上する政治家
など、いわゆる「時代遅れ」と言われる現象はなくなりません。
ジョージは時代の敗者の象徴として描かれています。
過去の栄光にすがりつかず、自らの殻を破れていたら全く違った未来があったのでしょう。
それぞれ生きていくための世界での戦い方はいつも変化していきます。
誰であっても、なんとか納得して新しい生き方を探していく必要がありますね。
③温かい愛が新たな人生を照らす
そんな時代に取り残され、人生までも捨ててしまいそうになったジョージに最後まで手を差し伸べ続けたのは、時代の最先端を走るぺピーでした。
ジョージがオークションで出品した作品を全て落札したり、ジョージに自身の主演映画で共演のオファーを出したりするなど、ぺピーのジョージへの愛が感じられる様子が描かれています。
もちろん同情はあるけれど、ぺピーが若い頃に憧れ、背中を追いかけ、今の自分のルーツでもあったジョージを心から尊敬していたのです。
そこには計り知れない愛があり、ぺピーはジョージとの共演を提案するなど、見返りなくジョージに向けて自らの愛を差し出すのでした。
しかし、ジョージはまたしても己のプライドが邪魔をして、そのぺピーの愛を素直に受け取れないでいます。
それでも撮影を抜け出し、再びジョージを救ったぺピーの愛が本物であると知ったジョージは初めて自らの殻を破る決意をします。
それがミュージカル映画への出演でした。
最後、吹っ切れたかのように笑顔になったジョージとぺピーがダンスをしてエンディングをむかえます。
ぺピーのジョージへの愛は映画の歴史に新たな1ページを刻みました。
この流れは名作『雨に唄えば』にも通じる部分がありますね。
サイレントからトーキーに移り変わる当時、出演者の声が問題となり失敗しますが、ミュージカル映画への挑戦によって成功を掴むことになります。
人の愛を描きながら、過去の名作への愛を感じさせる本作品は、まさに愛に溢れた一作と言えるでしょう。
2012年アカデミー賞最多部門受賞!
本作品は、作品賞を含む最多タイの5部門を受賞しました!
受賞部門
- 作品賞
- 監督賞
- 主演男優賞
- 衣装デザイン賞
- 作曲賞
2012年のアカデミー賞作品賞の行方
本作品はゴールデングローブ賞で作品賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞し、事前予想でもやや優勢に考えられていました。
主な対抗馬としては、マーティン・スコセッシ監督作品の『ヒューゴの不思議な発明』です。
結果として、作品賞は『アーティスト』に軍配が上がりましたが、『ヒューゴの不思議な発明』も最多タイの5部門(美術賞・撮影賞・音響賞・視覚効果賞・音響編集賞)を受賞しました。
その他のノミネート作品を見てみると、ゴールデングローブ賞で作品賞(ドラマ部門)を受賞した『ファミリ・ツリー』やカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した『ツリー・オブ・ライフ』などが候補として挙げられていました。
しかし、これといった決め手にはならず、結果として『アーティスト』が受賞したような形で、一部では2012年はやや不作の年であったとも言われています。
まとめ
今回は映画『アーティスト』のあらすじ・レビュー・解説を紹介しました。
ポイントをまとめると
- サイレントからトーキーへの移り変わりという映画史で最も大きな変革期であった
- スターは過去の栄光にすがりつき、自身の殻を破れず時代に取り残された
- 映画に関わる全ての人への愛、そして映画そのものの歴史への愛を描いた
となります。
新しい時代は、常に若い勢力が狼煙を上げるイメージがあります。
これまで当たり前だと思っていたことを疑う目線を持ち、発信していくことで初めて変革のスタートラインに立てます。
今では当たり前となったYoutuberなどのお仕事も、世間に認められるまでかなりの時間を要しました。
Youtubeについても、つい最近までは本作品と同じ状況が見られていたのではないでしょうか?
テレビとYoutubeを比較し、Youtubeを見下すような発言をするタレントやご意見番などいましたよね。
それでもテレビタレントもどんどんYoutubeに参入し、今やテレビよりも注目度が高くなってきました。
ジョージのように過去にすがりついたり、食わず嫌いをするのではなく、新しい時代を歓迎し、自らも新しい生き方を模索していく。
それができたとき、第二の人生として再び輝きを放つのでしょう。