短編映画『アイリッシュ・グッド・バイ』は見ましたか?
わずか23分の短編映画で、アイルランドの田舎町で母の死をきっかけに再会した兄弟の関係が描かれている作品です。
そんな本作品は、2023年第95回アカデミー賞で短編映画賞を受賞しました!
おめでとうございます!
この記事では、短編映画『アイリッシュ・グッド・バイ』の概要・あらすじを紹介するとともに
・兄弟の違和感
・母の「死ぬまでにしたかった100のリスト」とは?
・田舎で生きていくことへの理想と現実
・弟ローカンの本当の想いとは?
という点をポイントとして解説します。
※本記事はネタバレを含みますので、まだ見ていない方はご注意ください。
後半には、2023年第95回アカデミー賞授賞式についても解説していますので、ぜひチェックしてください!
それでは、いきましょう!
概要
アイルランドとイギリスで制作された23分のショートフィルム作品(短編映画)です。
北アイルランドのティロン群にあるグレンモーナンという集落を舞台に、母の死をきっかけに再開する兄弟の関係が描かれています。
本作品は、ショートフィルム作品専門の動画配信サービス「SAMANSA」で配信されています。
「SAMANSA」は月額250円で利用可能であり、7日間の無料トライアルを行っていますので、この機会に是非お試ししてみてください!※2023年3月現在の情報です
予告動画
あらすじ
母の死をきっかけにロンドンから北アイルランドの実家である農場に帰ってきた兄のトゥーロッホ
ダウン症の弟ローカンとは随分疎遠になっており、久々の再会を果たすが二人の関係はあまり良いものではなかった
トゥーロッホは実家の農場を売却し、ローカンを叔母に預けようとするが、ローカンは「実家に残る」と頑なに拒否するのだった
その大きな理由は、母が遺していた「死ぬまでにしたい100のリスト」であり、それをすべて行うまでは離れないというローカンの頑固な姿勢にトゥーロッホは渋々付き合うことになる
ネタバレ解説
それでは、本作品のネタバレ解説にいきましょう!
改めて本作品のポイントをおさらいしておきます。
・兄弟の違和感
・母の「死ぬまでにしたかった100のリスト」とは?
・田舎で生きていくことへの理想と現実
・弟ローカンの本当の想いとは?
それぞれ解説していますので、ぜひチェックしてください。
※ここからはネタバレが含まれます。
再開、そして違和感
神父が運転する車に、兄のトゥーロッホと弟のローカンが乗っていますが、会話はありません。
田舎道の静けさが二人の冷めた関係を示すかのように、お互いは疎遠になっていました。
母の訃報を受け、長らく帰ってきていなかったアイルランドに戻り、兄として今後のことを考えなければならない中、どうしても気がかりになるのが弟ローカンの存在です。
ダウン症の弟がどの環境でも一人で生きていけるのか、という心配を抱くのは致し方ないことであり、結果的にローカンを叔母に預けるという選択をします。
自分が面倒を見る、ということはしないんですね。
もちろん現在のイギリスでの生活があるので、それが難しいことはわかりますが、それ以上に、あまり関わりを持たないようにしている雰囲気を強く感じます。
おそらく、これまでもそのように兄から避けられてきたからか、ローカンもトゥーロッホに対して強く反抗する姿勢を見せていました。
叔母に預けられることや実家を売却することを拒否し、トゥーロッホに罵詈雑言を浴びせかけます。
面倒なことを避け、なるべく穏便に済ませたい兄と、母の遺骨を大事そうに持ち歩き、兄の言うことを聞かないマイペースな弟のいびつな関係がこの物語の根幹になっています。
母がしたかった100のリスト
神父から、母が遺した「死ぬまでにしたい100のリスト」の存在を知らされます。
トゥーロッホは、もう死んでしまったのだから意味がない、と取り合う様子を見せなかったが、ローカンはそのリストが気になっていました。
神父からそのリストを手に入れたローカンは「死ぬまでにしたい100のリスト」を1個ずつ行うことになり、トゥーロッホは翻弄されています。
ここからは少しコメディ要素で物語が進んでいきます。
カンフーを行ったり、デッサンを行ったり、遺骨を風船で飛ばしたり、、、
その一つ一つが笑えて、とても心温まるようなシーンの連続です。
このシーンは本当に笑えます!
はじめは、ローカンの気が早く済むことを期待していたトゥーロッホですが、徐々に楽しくなっていき、気がつけば2人は笑い合って遊んでいたのでした。
母が遺してくれたもので冷え切っていた関係がもとに戻る、というのはとても素敵なことですよね。
それでも「現実」を選ぶ兄
しかし、現実はそう甘くもありません。
リストは99個まで進みましたが、ローカンは母の骨壷を橋から落として割っていまします。
ちなみに、これはスカイダイビングをさせてあげようとしていたためです。
これまで現実を忘れて、楽しみはじめていたトゥーロッホは、このことでローカンを叱りつけました。
その後、実家の農場を売りに出し、ここから出るようにローカンに伝えますが、やはりローカンは拒否します。
せっかく仲が戻りつつあったのに、現実は残酷なものです。
しかし、これはどの時代でも起こりうることではないでしょうか。
実家に済む両親が亡くなり、空き家になった場合の維持をどうすればよいのか?
あるいは、年配の人が一人で暮らすことになった場合は誰が面倒を見ればいいのか?
こういった家の維持や介護の問題があり、売却したり老人ホームに預けたりなどすることが一般的ではあるものの、中には実家を売りたくない、老人ホームには入りたくない、という拒否反応を示す人も多くいるわけです。
特に少子高齢化が進んでいる日本では、この問題は非常に大きいものなっていますね。
弟の本当の想いとは
そろそろ家を出るときが訪れ、神父が迎えに来ます。
そこで、トゥーロッホは真実を知るのでした。
神父が持っていた母のリストは、ローカンに渡されていなかったのです。
つまり、これまで2人で行った99個のことはすべてローカン自身が考えたものでした。
それを知ったトゥーロッホはローカンに優しく問いかけます。
「もっと最悪なことが何かわかるか?それは100個目を終わらせていないことだ。終わらせないままだとお母さんはどう思う?」
そして、2人は「宇宙に行く」という100個目を打ち上げ花火という形で行い、それはまるでお母さんを天国に連れて行ってあげるかのようでした。
満足した2人は火を囲みます。
そこでローカンから渡されたのは101個目のリストが書かれている紙でした。
「最後の願いは、ローカンとトゥーロッホがまた最高の仲に戻ること、そしてトゥーロッホがアイルランドンに帰ってくること」
不器用だけど素直なローカンの気持ちにトゥーロッホは笑みをこぼし、「わかった、考えておく」と伝えて物語は終わっていくのでした。
これまでの冷めた関係があり、さらに長年疎遠になっておりましたが、ローカンは家族と実家がどこまでも大切で、お母さんが亡くなったからこそ、家族の絆を取り戻したいという率直な思いにとても感動します。
2023年アカデミー賞受賞
2023年第95回アカデミー賞授賞式にて、本作品は短編映画賞を受賞しました!
短編映画は、その性質からなかなか注目が集まらず、アカデミー賞などにおいても少し目立たない賞ではありますが、1931年第5回からスタートしている非常に歴史の深い部門です。
40分未満、という条件があり、多くの作品は40分弱であるにも関わらず、本作品はわずか23分と短いながらもきれいにまとめあげた傑作だと思います。
その他の映画賞でも数多くノミネートされていたり、受賞したりしているので、本作品への絶大な評価が伺えますね。
アイルランド勢の躍進
2023年第95回アカデミー賞では、アイルランドに関係する作品やキャストの躍進が見られました。
本作品に加えて、8部門9ノミネートされており、作品賞でも本命視されていた『イニシェリン島の精霊』もアイルランドの孤島での物語です。
さらに、惜しくも受賞には至らなかったものの、国際長編映画賞で『The Quiet Girl』がノミネートされていました。
そして、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』は視覚効果賞を受賞し、そのアドバイザーを務めたリチャード・バネハムもアイルランド出身です。
例年にはあまり見られないからこそ、2023年はアイルランド勢の躍進に大きな注目が集まっていました。
同じアイルランドの仲間として、本作品が壇上でスピーチをしているときに、『イニシェリン島の精霊』で主演を務めたコリン・ファレルが壇上に向かってグッドポーズをしていたのが非常に印象的でした。
このように、映画などを通して、ある国の存在がピックアップされることはとても喜ばしいことですね!
授賞式では素敵な演出が
このアカデミー賞の授賞式では、最も心が温まるシーンがありました。
本作品の監督のトム・バークレーが壇上でスピーチをしているとき、「今日はジェームズ・マーティンの誕生日なんだ。一緒にお祝いしてくれ」と参加者に呼びかけ、会場はハッピーバスデーソングに包まれました。
ジェームズ・マーティンは弟ローカンを演じており、彼自身ももちろん初めてのアカデミー賞の場でしたので、一生忘れることのない素敵な思い出になったでしょうね。
まとめ
本作品では、短編映画『アイリッシュ・グッド・バイ』の概要、あらすじとともに、ネタバレ解説を紹介しました。
ポイントとしては
・弟との関係を避けてきたことから、弟も反抗的になってしまっていた
・カンフーやデッサンなど、100のリストが2人の仲を取り戻すきっかけになった
・現実を考えると、いつまでも田舎の実家を残しておくわけにはいかなかった
・100のリストはローカンが考えたことで、兄との仲を取り戻したかった
となりました。
「家族愛」というテーマの作品はよく見られますが、本作品は、田舎という舞台で家族のケアや家の維持という非常にリアリティのある問題を描きながら、時折笑いもあり、涙もあり、なおかつ23分という短い時間でおさまっている、というすごい濃密な作品です。
短編映画なので、あまり時間を費やすことなく満足感を得られる作品ですので、とてもオススメです!
ぜひ、チェックしてみてください!
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