映画『ベルファスト』は見ましたか?
実際に起こっている北アイルランドの紛争を実体験をもとに描いており、子どもの純粋な心と無慈悲な争いが対比的に描かれている作品になります。
この記事では、映画『ベルファスト』の概要・あらすじを紹介するとともに
- 北アイルランド紛争とは?
- 「子どもの純粋な心」と「戦争」
- 故郷に向けた思い
- 人の尊厳とは?
という点をポイントにネタバレ解説していきます。
すでに見た方も、まだ見ていない方も、本作品をさらに深く知れるきっかけにしてもらえると嬉しいです。
また、本作品が受賞したアカデミー賞などについても解説していますので、そちらもチェックしてください。
それではいきましょう!
概要
出典:https://video.unext.jp/title/SID0069349
2022年3月に日本で公開された作品です。
監督・脚本を務めたケネス・ブラナーの実体験をもとに制作された自伝的な作品で、北アイルランドの紛争をテーマに、その現状の無惨さとともに故郷や家族への愛を描いています。
まさにケネス・ブラナー監督が当時を回想するかのようにモノクロ映画として制作されており、強いメッセージと共に趣の感じられる本作品は、2022年のアカデミー賞では7部門にノミネートされました。
予告動画
あらすじ
19169年北アイルランドのベルファスト
平和な街で友達と楽しい毎日を過ごしていたが、突如プロテスタントの過激派によりカトリック派の住民への攻撃が始まり、これまでの仲間とは分断され、生活が一変してしまう
なぜ争いが起こっているのかわからない主人公のバディは、密かにクラスメイトのキャサリンへの恋心を抱き、徐々に仲は進展していくが、ベルファストから離れなければならないかもしれないことを告げられてしまう
どんどん街の暴動が過激となっていく中、家族は、故郷を思ってベルファストに残るか、安全な生活を得るためにイングランドに移るのかの葛藤を抱いていく
ネタバレ解説
それでは、本作品のネタバレ解説にいきましょう!
改めて、本作品のポイントは以下のとおりです。
- 北アイルランド紛争とは?
- 「子どもの純粋な心」と「戦争」
- 故郷に向けた思い
- 人の尊厳とは?
それぞれ解説していますので、ぜひチェックしてみてください!
※ここからはネタバレを含みます。あらかじめご了承ください。
①北アイルランド紛争とは
本作品で描かれている1969年の紛争は、一言で表すと「宗教の争い」です。
北アイルランドの問題を考えるには、非常に長い歴史を語らなければなりません。
元々アイルランドは700年以上もイギリスに統治されており、1919年に独立戦争が起こりました。
休戦協定として英愛条約が締結され、アイルランドが南北に分割されることになり、南部は自由国の建国、北部はイギリス領としてとどまることになりました。
(※説明を省略していますが、1921年から1969年まで他にも様々な動きはあります)
ここで出てくるのが宗教の問題です。
キリスト教の中でもカトリック派とプロテスタント派で考えが真反対でした。
カトリック派 | プロテスタント派 |
ナショナリスト (アイルランド独立) | ユニオニスト (イギリス統治) |
アイルランド南部はカトリック派が多く、北部はプロテスタント派が多い状態となっているものの、それぞれの宗派が混在して暮らしている状態でした。
北アイルランドでは、プロテスタント派が多数派となり、本作品のように少数のカトリック派を攻撃する事態が起こります。
これ以降もこの宗派の争いは、北アイルランド紛争として1998年までの長きに渡って続いていくことになります。
本作品にも関係している『イニシェリン島の精霊』
上記にもありますが、1919年にアイルランドは独立を目指して戦争を引き起こします。
その頃のアイルランドを舞台とした映画『イニシェリン島の精霊』が2023年に公開されました。
直接独立戦争の描写あるわけではないのですが、当時のアイルランドの歴史を知る、という意味では併せて見ておくとさらに楽しめる作品ですので、ぜひ見てみてください!

②子どもの純粋な心
本作品では、バディなどの子どもの純粋な姿が、争いへのアンチテーゼとして描かれています。
バディは、学校には好きな女の子のキャサリンがいて、隣の席に座りたくて一生懸命勉強を頑張って、その甲斐もあって一緒に勉強できるまでの仲に進展します。
とても微笑ましい姿が描かれており、争いが起こっている中でも子どもの純粋な心を感じさせてくれますよね。
一方で、バディが唆され万引きをしてしまう姿も描かれていますが、ここにも子どもの純粋さが見受けられます。
子どもにとって、万引きに対する認識は大人に比べると低いかもしれません。
つい出来心でやってしまい、成功すると癖になっていくものです。
バレた時のことなどは一切考えず、その時のワクワク感で支配されしまいます。
しかし、バディはバレてしまい、警察や親を含めてこっぴどく叱られてしまいました。
そこで初めて自分のしたことの重大さを知るんですね。
子どもは、多くのことをまだ知りません。
なぜ、好きな人ができると胸がドキドキしてしまうのか
なぜ、万引きをしてはいけないのだろうか
なぜ、人は宗教を信仰するのか
なぜ、故郷を出ていかなければならないのか
知らないことが多いからこそ、汚れのない愛で溢れています。
もしかしたら、大人は一度足を止めて、子どもの言葉に耳を傾けなければならないかもしれません。
なぜ、戦争をしなくてはならないのだろうか
この純粋な疑問こそ、戦争という歴史を繰り返さないために、今一度考えなければならないことなのでしょう。
③愛する故郷はなくならない
この争いが起こる以前、ベルファストは明るく、活気に溢れている街として描かれていました。
バディも仲間たちと遊び、街の人々にも名前を覚えられているような、平和で親和のある状態だったにもかかわらず、突如争いが起こってしまいます。
イングランドから帰ってきた父が家族のためにベルファストから出ることを提案しますが、母はなかなか受け入れることができませんでした。
いつ巻き込まれてもおかしくない中、なぜか?
「自分たちの訛りのせいで新しい町にも馴染めないし、脱走してきたやつだと言われてしまう」と母は言います。
バディも兄も、それぞれベルファストから出ることに反対します。
やはり、故郷というのはそれほどまでに大きいものなんですね。
これまで当たり前だと思っていた生活があったからこそできたことがあり、新しい町ではその全てが無くなってしまうのではないか、という不安を抱きます。
それでも祖父は、バディに「どこへ行っても、お前はベルファストのバディだ」と言い、勇気づけてくれました。
どこに行っても家族は家族で、仲間は仲間です。
決して無くなるものではありません。
新しい生活への不安はあるけれど、故郷というホームがあるので、またいつでも帰ってくることができるのです。
そうして、また帰って来られることを信じて、家族はベルファストを離れることを決めました。
④人の尊厳は宗派だけでは決まらない
ベルファストを離れるとき、バディはお父さんに聞きます。
「プロテスタントの自分とカトリックのキャサリンは結ばれることはないの?」
お父さんの答えは素晴らしいものでしたね。
「親切で、公平で、お互いを尊重するのであれば、いつだって歓迎するさ」
これは宗教の問題だけでなく、人種などの問題でもそうあるべき姿だと思います。
私たちは人間であり、あくまで人と人との関わりの中で生きてきました。
その関わりの中で生まれた心を邪魔できるものは、たとえ宗教や人種であってもあってはならないことです。
この喧騒で溢れる世界で、私たちがするべきことは争うことではありません。
「自分と違う」ということに対して、最大限のリスペクトを送ることです。
そうしてリスペクトが溢れた世界に変われば、この世の中から戦争はなくせるはずです。
2022年アカデミー賞7部門ノミネート
Kenneth Branagh WINS the Academy Award for Best Original Screenplay for #BELFAST! 🏆
Thank you to @TheAcademy and huge congratulations to Ken! pic.twitter.com/BnyTb4GDZO
— Belfast (@BelfastMovie) March 28, 2022
2022年第94回アカデミー賞では、作品賞を含む7部門にノミネートされました!
ノミネート部門
- 作品賞
- 監督賞
- 助演男優賞
- 助演女優賞
- 脚本賞
- 歌曲賞
- 音響賞
アカデミー賞脚本賞受賞!
結果として、本作品は脚本賞のみの受賞となりました。
前評判では、作品賞最有力とも言われ、ノミネートの段階では多くの注目を浴びていましたが、惜しくも受賞には至りませんでした。
ちなみに作品賞を受賞したのは、耳の聞こえない家族の絆を描いた『コーダ あいのうた』が受賞しました。

トロント国際映画祭など世界からの賞賛
本作品が評価されたのはアカデミー賞だけでなく、その他の映画賞でも受賞しました。
その中でもカナダで行われえるトロント国際映画祭では、最高賞であるピープルズ・チョイス・アワードを受賞し、No. 1映画としての評価を得ました。
その他にはゴールデングローブ賞で脚本賞、ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞では助演男優賞を受賞しています。
まとめ
今回の記事では、映画『ベルファスト』のネタバレ解説を行いました。
ポイントをまとめると
- 北アイルランド紛争は、宗派による対立から起こった
- 戦争という歴史を繰り返さないために、今一度疑問を抱こう
- どこへ行っても、故郷への愛が変わることはない
- どんな宗派や人種であっても、相手へのリスペクトが大切
となりました。
戦争の話題ではもちろんのこと、特に宗教の話は非常にデリケートです。
その歴史は遡ることさえも困難なほど、深いものがあります。
もしかしたら永遠に変わることのない問題なのかもしれません。
しかし、常に時代は私たちに進化を与えてくれてきました。
歴史を学び、相手を思いやることが日常的になる世界が訪れ、この世の中から争いがなくなることを心から願っています。