映画『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』は観ましたか?
2023年に公開されたアメリカのドラマ映画ですが、ハリウッド映画界で実際に起こった大事件をもとに描かれており、長きに渡って起こっていた女性へのセクハラや性暴力問題に一石を投じた瞬間を捉えています。
あまりにも悲惨すぎる現実に衝撃を感じ、それに立ち向かう女性たちの姿に勇気をもらえる内容になっていると同時に、他人事だと思わずに問題意識を持つことの大切さを感じさせる一作です。
この記事では、本作品の概要・あらすじを紹介するとともに、主に6つのポイントでネタバレ解説を行なっています。
- ハーヴェイ・ワインスタインって誰?
- 蔓延る性暴力
- 誰も言わない
- 加害者を守る法制度
- 声を出した勇者たち
- そしてMe Too運動へ
本作品をより詳しく知れる内容になっていますので、ぜひチェックしてみてくださいね!
映画『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』概要

2017年に世界を賑わせた映画プロデューサー:ハーヴェイ・ワインスタインの性暴力問題を報じたニューヨークタイムズの記者の奮闘を描いた作品です。
「その名を暴け―#MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い―」という原作をもとに制作されており、その著者であるジョディ・カンター記者とミーガン・トゥーイー記者が主人公として登場しています。
実際に起こった事件であるために、非常に解像度の高い描写が多数描かれており、衝撃の真実が徐々に明らかになっていく展開に驚きを隠せません。
本作品で描く事件は、世界中で巻き起こったMe Too運動の発端となった事件であり、女性蔑視問題への意識がより一層強まったきっかけにもなりました。
監督 | マリア・シュラーダー |
出演 | キャリー・マリガン ソーイ・カザン パトリシア・クラークソン アンドレ・ブラウアー |
時間 | 135分 |
ジャンル | ドラマ |
制作 | アメリカ |
公開 | 2023年1月13日 |
予告動画
あらすじ
ニューヨークタイムズの記者であるミーガンとジョディは、ハリウッド映画界のプロデューサーであるハーヴェイ・ワインスタインが日常的にセクハラや性暴力を行なっているという情報を得た
記事にするために被害者へ取材を開始するが、誰も口を割らず、取材は難航する
そこには、被害者ではなく、加害者を守るための法制度が存在していた
映画『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』ネタバレ解説

ここからは、映画『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』のネタバレ解説を行います。
主に6つのポイントで解説しており、ストーリーの流れに沿って紹介しているものの、予備情報などを含めていることもあり、ポイントによっては順不同になることがあるのであらかじめご了承ください。
※ネタバレを含みますので、ご注意ください。
- ハーヴェイ・ワインスタインって誰?
- 蔓延る性暴力
- 誰も言わない
- 加害者を守る法制度
- 声を出した勇者たち
- そしてMe Too運動へ
それでは、いってみましょう!
ハーヴェイ・ワインスタインって誰?

本作品を深く知るためには、まずはハーヴェイ・ワインスタインという人物をしておかなければなりません。
ハーヴェイ・ワインスタインは、ハリウッド映画界の超大物プロデューサーです。
彼のことを一言で表すとすれば・・・
世界で最もアカデミー賞の勝ち方を知っている男
と呼ぶのが相応しいかもしれません。
ミラマックスという映画会社を立ち上げ、ヒット作を連発し、当時の映画界に風穴を開ける存在になっていきました。
アカデミー賞の常連となっていたミラマックス社でしたが、彼はその権利を手放し、ワインスタイン・カンパニーという会社を立ち上げています。
さらには、プロデューサーとしての手腕はピカイチであり、数々のヒット作を世に生み出しています。
- パルプ・フィクション
- イングリッシュ・ペイシェント
- グッドウィル・ハンティング/旅立ち
- 恋に落ちたシェイクスピア
- ロード・オブ・ザ・リング シリーズ
- アビエイター
- シカゴ
- 英国王のスピーチ
- アーティスト
映画が好きな人なら知らないものはないような有名作品ばかりであり、彼が携われば何らかの賞をもたらせるほどの力を持っていました。
特筆すべきはアカデミー賞であり、彼はアカデミー賞で勝つための戦略や手段を知り尽くしていたと言われています。
「アカデミー賞は選挙活動と同じ」と言われるように、純粋な作品の良し悪しだけでなく、その前の賞を取るための活動も非常に重要になってきますが、ミラマックス社やワインスタイン・カンパニーは最もその活動をしていたそうです。
そのこともあってか、上記のような作品をはじめ、実に250以上ものアカデミー賞ノミネートをもたらしています。
そんな彼はハリウッド映画界で絶対的な権力を握り、次第にその権力を振りかざして何人もの犠牲者を出してきました。
本作品は、その影に追いやられた犠牲者たちの闇や悲痛の叫びが世に放たれるまでを描いています。
蔓延る女性への性暴力
ハーヴェイ・ワインスタインが行っていたセクハラや性暴力はとても卑劣なものでした。
脚本の打ち合わせと題し、部屋に呼び込み、マッサージを促し、徐々に身体を弄っていく、というものです。
もちろん被害者たちは拒否をしますが、その際には今後のキャリについての話を出すこともありました。

最低だね。「断れば君の未来はないよ」ってこと?



そう、そんな感じだね。これは十分脅しに該当していることだよ
そうやって自分の権力を濫用し、多くの女性を脅すことで自身の快楽を埋めてきました。
本作品では、そのセクハラ・性暴力の現場は直接描かれないものの、録音されたハーヴェイの会話が流れ、どのような流れでセクハラ・性暴力が行われたかが鮮明に語られています。
誰も言わない
ジョディはハーヴェイの問題を記事にするために、取材に取り掛かります。
女優のローズ・マッゴーワンやアシュレイ・ジャッドと連絡を取り、話を聞くことに成功しましたが、あくまでオフレコとしてのものだったため、記事にすることはできません。
さらにミーガンも取材に加わり、ミラマックス社に対する裁判の申し立ての記録を調査しますが、それさえも担当者が口を割らない状況でした。
そこから、表舞台に立っていた女優だけではなくミラマックス社に勤めていた従業員に目を向け始めます。
元従業員の女性に会いに行き、話を聞こうとするも「話すことは何もないわ」と取材を拒否されてしまいました。
結果的に3名の元スタッフの名前があがり、ミーガンとジョディは手分けして取材に向かいますが、共通して取材を拒否されてしまい、取材は難航を極めます。
なぜ、誰も口を開かないのか?
ローズはジョディに「昔公表したけど、誰も何もしてくれなかった」と言います。
過去に勇気を振り絞って声を出したけれども、周囲の人間は誰も取り合ってくれず、むしろ自身に対して「妄言だ」というような非難が集まってしまうような経験をしています。
だからこそ、「今さら話せることなどない」という気持ちを抱くことも当然ですが、誰も声をあげない本当の真相はもっと大きなものであり、なかなか太刀打ちのできないものでした。
加害者を守る法制度
ミーガンとジョディは、たどり着いた被害者たちに会い、取材を行うも彼女たちは口を揃えて「秘密保持契約」という言葉を出し、「話せません」と公表することを拒否しました。
彼女たちは全く話したくない、というわけではなく、本当は話したいけど話せない、という様子でした。
「秘密肘契約(NDA)」とは、一般的に会社間での取引の際に使用される契約ですが、簡単に言えば、相手に対して自社の秘密事項を取引で必要な場合を除いて、他の場での公表を禁止するものです。



要は「このことは誰にも言わないでね」ってこと?



その通り!
会社間の取引において、秘密保持契約は必要不可欠なものですが、今回のハーベイ・ワインスタインが用いた秘密保持契約は単なる口封じでした。
「このことを誰にも言わない。その代わり大金を支払う」と示談に持ち込み、大金を渡して自身の行いが決して世に出ない仕組みを作り上げていたのです。
お金はいくらでもあり、優秀な弁護士もたくさん雇っているので、いくらでもこのようなことができてしまうんですね。
人を守ための法律のはずが、結果的に守っているのは加害者であり、秘密保持契約という名のしがらみを背負わされた被害者は守られるどころか恥に追いやられてしまっているのです。
声を出した勇者たち
「話せない」という被害者でしたが、取材を重ねていくと徐々にその流れは変わっていきます。
ミラマックスの元スタッフであるゼルダは、同僚が被害に遭った過去を告白し、それを闇に葬ったのは秘密保持契約だと話しました。
今まで何度も話してきたけど、誰も耳を貸さなかったと不満を浮かべながらも、鮮明に過去の出来事をジョディに語り、最後にはその秘密保持契約の内容が書かれた文書をジョディに託すのでした。
さらに、最初は取材さえも拒否していたミラマックスの元アシスタントであるローラも、仲間だと思っていた元同僚からの裏切りとも取れる言動から取材に応じることになります。
証言者が増え、徐々に事態が明るみになっていく最中、その動きに気付いたワインスタイン側も動かざるを得なくなっていきました。
ワインスタイン側の弁護士や会計士と会い、事実を探っていくミーガンとジョディは、集めた証言をもとに揺さぶりをかけていきます。
結果的に内部からの秘密情報とも取れるものの入手に成功し、いよいよ記事の執筆に取り掛かるのですが、一番の問題は証言の匿名性でした。
匿名のタレコミであると信憑性が失われ、捏造を指摘されてしまうとニューヨークタイムズとしても非常に劣勢に追い込まれてしまいます。
しかし、そんなニューヨークタイムズを救ったのはかつての被害者でした。
アシュレイ・ジャッドはジョディに電話し、「私の義務だ」と記事への名前の公表を承諾します。
ジョディは泣きながら「She said(彼女は言ってくれた)」とメンバーに伝えるのでした。
さらに、ローラからも電話があり、「私は秘密保持契約に証明はしていない。発言禁止令はないから名前を出して」と言うのです。
他の被害者のために勇気を出して公表した彼女らの勇気により、この長きにわたって被害者を生み続け、闇の中に真相を隠していた事件は終焉に向かっていくのでした。
そしてMe Too運動へ
ニューヨークタイムズに掲載後、ニューヨーカー紙でも同様の問題が取り上げられ、世界中で同調する人々が出てきました。
その結果、82名の女性が被害に遭ったことが明らかになっています。
このように1人が声をあげ、それに続いて他の人が声をあげる風潮になり、さらにはSNSの時代でもあったことから、「#Me Too」という合言葉とともに世界中に広がっていくのでした。
さらには、セクハラに対する抗議運動として「タイムズアップ運動」というものも加速し、ゴールデングローブ賞やアカデミー賞の場では、女性の参加者が黒いドレスを着用して参加する場面が見られました。
その中で印象的だったのは、2018年アカデミー賞でのフランシス・マクドーマンドの受賞スピーチです。


彼女は壇上のスピーチで、女性の参加者に向けて起立するように求めます。
そして、立ち上がる女性参加者、そして会場全体に向かって、女性の持っている力とそれを発揮するための環境の整備を訴えました。
会場は拍手喝采に包まれ、その後も彼女は「Inclusion rider」という言葉を残し、スピーチを終えました。
「Inclusion rider」とは、包摂条項のことであり、簡単に言えば、俳優・女優が作品に出演する際にキャストやスタッフの人種・性別構成に対して多様性を求めるための条項です。
このことにより、女優や女性スタッフが搾取されることなく、安全性が確保された映画撮影現場であることが可能になります。
この一連の出来事により、女性に対するセクハラや性暴力などの問題は注目を集めたものの、問題は女性に対するものでだけではありませんでした。
男性の俳優もセクハラ被害を受けており、その1人がブレンダン・フレイザーです。
彼もゴールデングローブ賞を主催する団体の元会長からセクハラ被害を受けたとして、一時期は精神的なダメージによりハリウッド映画界から姿を消していました。
告発するも巧みに交わされ、まだまだ問題は渦中にあるのかもしれませんね。


各レビューサイトでの評価


本作品の世間の反応について紹介します。
それぞれ点数と主なレビューを3件ずつ紹介していますので、気になる方はぜひリンク先をチェックしてみてください!
Filmarksの使い方については以下の記事を参考になります。


Filmarks
・取材によって世界を変えようとする記者たちが非常にかっこいい
・社会的な事実として知っておくべき内容の作品
・言葉は力であるということを感じた
Filmarks:『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』映画情報・感想・評価ページ(https://filmarks.com/movies/101439)
IMDb
・主人公2人の粘り強さと情熱が光る素晴らしいパフォーマンス
・なぜアカデミー賞にノミネートもされないのか・・・
・この作品を見て、問題を重く受け止めてくれる人がいることを信じている
IMDb 『She Said』(https://www.imdb.com/title/tt13833688/)
Rotten Tomatoes
・パワフルで、とてもよくまとまっていて、素晴らしい演技が見られた
・何度も涙が出た、とても重要な作品
・この作品は公になるべきものである
Rotten Tomates 『She Said』 (https://www.rottentomatoes.com/m/she_said)
まとめ
この記事では、『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』の概要・あらすじを紹介するとともに、6つのポイントからネタバレ解説を行いました。
- ハーヴェイ・ワインスタインはアカデミー賞作品を連発した超大物映画プロデューサー
- ハーヴェイは、女性の仕事を奪うと脅迫し、セクハラや性暴力を行なっていた
- 被害者は誰も事件のことを話そうとしなかった
- 秘密保持契約という名の口止めがあったせいで、誰も話せなかった
- 次なる犠牲者を生まないために、勇気を出して声をあげた
- 同調する人が続き、世界中を巻き込む#Me Tooに繋がった
最近、日本の映画界でも似たような女性への性問題が話題になっていました。
国は関係なく、どこでも同じようなことが起こっていることを考えると、非常に虚しい気持ちになってしましますね。
このような事件がもととなり、抜本的に体制が改善されるととを切に願っています。