Netflixオリジナル作品『西部戦線異状なし』を観ましたか?
2022年に公開された本作品は、1929年に出版された同名小説を映画作品化したものになります。
同名のタイトルの映画は1930年にも制作されており、見事アカデミー賞作品賞に輝きましたね。
そしてNetflixオリジナル作品として、再び強烈な反戦メッセージを掲げた本作品をレビュー・解説します!
この記事では以下のポイントを考察しています。
- 西部戦線とは?
- 祖国の誇り
- 戦場に行く若者たち
- 国境が打ち砕いた友情
- タイトル『西部戦線異状なし』に込められた意味とは?
※ネタバレが含まれますのでご注意ください。
本作品を深く知り、より楽しめるきっかけにしていただけたら幸いです。
それでは、いってみましょう!
『西部戦線異状なし』 概要
Netflixオリジナル映画『西部戦線異状なし』は、2022年にドイツとアメリカで制作された戦争映画です。
第一次世界大戦の西部戦線での戦いをドイツ側から描いており、国のために戦争に行くこと、戦地の悲惨さが生々しく写されています。
その臨場感のある映像と全体的な完成度が大きく評価され、2023年アカデミー賞4冠、英国アカデミー賞5冠と凄まじい成績を記録しました。
本作品のキャストはほとんどが無名であるものの、それぞれのキャラクターがしっかり際立っている演技にも要注目です。
監督 | エドワード・ベルガー |
出演 | フェリックス・カマーラー アルブレヒト・シュッヘ アーロン・ヒルマー モーリッツ・クラウス |
時間 | 147分 |
ジャンル | ドラマ/戦争 |
制作 | ドイツ/アメリカ |
予告動画・概要
あらすじ
1917年
第一次世界大戦が勃発している最中、主人公の学生パウルは仲間たちとドイツ帝国の陸軍に入隊する
祖国のために戦場に行くことを誇りに思い、イキイキとした表情で戦場に向かうが、現実の戦場は絶望そのものであった
ドイツ軍兵士は、死なないために必死に戦い、その道中で仲間との絆も深まっていくが、その絆も束の間の夢であり、時間とともに一つまた一つと命を落としていく
戦場で絶望と喪失感を味わったパウルたちの中には、もう「祖国の誇り」などどこにも残っていなかった
レビュー・解説(ネタバレあり)
それでは、ここからは本作品の解説を行っていきます。
※ネタバレを含みますので、あらかじめご注意ください。
戦争の背景を知っておくことで、より作品への理解も深まると思いますので、そちらについても詳しく解説しています。
- 西部戦線とは?
- 祖国の誇り
- 戦場に行く若者たち
- 国境が打ち砕いた友情
- タイトル『西部戦線異状なし』に込められた意味とは?
西部戦線とは?
1914年から1918年までに渡って行われた第一次世界大戦において、主な戦地となった地域を総称して西部戦線と呼ばれています。
ドイツとの国境であるフランス北東部やベルギー南部をドイツ軍は侵攻していっていましたが、中々戦況は変わることはありませんでした。
その大きな要因の一つは塹壕戦と呼ばれる状態にあります。
両軍が、画像のような塹壕と呼ばれる防御のための溝のようなものを形成し、巧みに敵からの攻撃を退けていました。
敵地に攻め入る歩兵たちは、格好の餌食と言わんばかりに塹壕に隠れた敵兵からの攻撃を受け、前進は及ばず多くの命を失っています。
もちろんドイツ軍としては、戦況を打開するためにマルヌの戦いなど数々の策を講じましたが、そのどれもが失敗に終わってしまいます。
結果として、1914年の開戦から行われた西部戦線での戦いはこう着を極め、1918年の休戦まで両軍の兵士がただ命を落としていくだけの状態となってしまいました。
祖国の誇り
第一次世界対戦当時、多くの国では国のために戦うことが美徳とされ、ドイツも御多分に洩れず「我が国の誇り」だとして兵士を送り出していました。
しかし、戦場は絶望そのもので、さっきまで普通に会話していた仲間たちが平気で死んでいく惨状を目の当たりにすると、そこには誇りなど存在しないことがわかります。
西部戦線で行われた戦いで、ドイツ軍は事実上負けを喫することになるのですが、現場の兵士ではなく、本部の将軍たちがその事実を受け入れません。
休戦まで残り15分、休戦協定を申し出たドイツ軍はいかに戦死者を減らすかが至上命題となっていたにも関わらず、将軍は最後の悪あがきで兵士を突撃させます。
「祖国のために戦え」
この号令は、決して美しいものなどではなく、負けを受け入れないバカな大人たちが、勇敢な祖国民に「死にに行け」と言っているものなのです。
祖国にも、誰にも守られなかった兵士たちは、史上最高の無駄死にをしたのでした。
戦場に行く若者たち
戦場に行くことの栄誉を欲しいために、若者たちは仲間同士鼓舞し合い、そこに夢を見ています。
しかし、戦場に到着すると表情は一変し、戦場の現実を知るのです。
それまでは戦場を知らなかった彼らは、揃って「こんなはずじゃなかった」と口にしていました。
もちろんそれぞれの兵士にそれぞれの人生と家族があり、それ以上に大切なものなど戦場にはなにもありません。
戦場に行く前の、誇りと栄誉を胸に掲げ、国に焚きつけられてロマンを追いかけた頃とは打って変わり、戦場には「早く帰りたい」と咽び泣き、祖国の敗北よりも「もう戦わなくていい」という喜びを浮かべる兵士たちで溢れていました。
何も知らない国民
国を破滅に導いたプロパガンダ
多くの兵士たちの犠牲とその歴史がその怖さを証明しています。
国境が打ち砕いた友情
本作品で最も印象に残ったのは、主人公のパウルがフランス兵を殺した後に咽び泣くシーンです。
パウルは自らの命を守るために一心不乱に戦い、相手のフランス兵を刺し続けます。
しかし、ふと我に帰ったときに、今まで目を背けていた「人を殺す」ということの罪深さを感じてしまいました。
パウルは「同じ兵士だ、戦友だ」と言いながら、自らが殺めたフランス兵を助けようとします。
そのフランス兵にも家族があり、一人の人間の尊さを感じながら、死に行くフランス兵に「ごめん、ごめん」と許しを請うのでした。
話す言語が違い、着ている軍服が違うだけで、彼らは一人の人間同士です。
会う場所が違えば、そこには友情が芽生えていたかもしれません。好きこのんで人を殺している兵士なんていないでしょうから、分かり合える部分はきっとあったはずです。
戦場で会ってしまったがために命を奪い合いますが、「殺さなければならない」という使命が当人たちを苦しめています。
勝手に祖国を背負わされた彼らは、ある意味被害者なのかもしれませんね。
タイトル『西部戦線異状なし』に込められた意味とは?
「異状なし」
そんなわけがないでしょう。
多くの兵士が命を落とし、お互いの国にとっても損失しかありません。
では、なぜ「異状なし」なのか?
エンドクレジットにもある通り、この西部戦線の戦いは、1914年から1918年までの長きに渡り行われましたが、そのほとんどの期間はこう着状態が続き、目立った進展はありませんでした。
塹壕戦は泥沼となり、攻めては打ち伏せられが続いています。
結果として、300万人が命を落とすことになりました。
4〜5年を費やし、300万人が命を落としたのにも関わらず、無駄な争いだったわけです。
さらに、兵士たちはそれぞれ一人の人間であるはずなのに、さも誤差であるかのように次から次へと戦死していき、当たり前のように次の兵士たちが送り込まれていきます。
戦場で起こった現実を見ると、決して簡単に済ませられるようなものではないのですが、側から見れば「多くの兵士が死んだ。しかし、大した進展はなかった」としか思わないのです。
このタイトルは、その一人一人の人間の尊厳を無いものとし、戦果のなかった戦争に対して、最大の皮肉を込めたメッセージなのでしょう。
各レビューサイトでの評価
本作品の世間の反応や評価について紹介します。
それぞれ点数と主なレビューを3件ずつ紹介していますので、気になる方はぜひリンク先をチェックしてみてください!
Filmarksの使い方については以下の記事を参考になります。
Filmarks
・描写の鮮烈さが素晴らしい
・「戦争とは何なのか?」をすごく丁寧に教えられた気がした
・心に重くのしかかる。辛かったけど観るべき作品
Filmarks:『西部戦線異状なし』映画情報・感想・評価ページ(https://filmarks.com/movies/105398)
IMDb
・戦争の無益さを思い出させてくれた作品
・冷酷で冷淡だが、それが戦争というものだ
・戦争をこれほどまでに激しく感じさせる作品はこれまでになかった
IMDb 『All Quiet on the Western Front』(https://www.imdb.com/title/tt1016150/)
Rotten Tomatoes
・史上最高の戦争映画
・多くのドイツ人が同じように苦しんでいたことを学ばなければいけない
・迫力満点の映像や音楽が素晴らしい!
Rotten Tomates 『All Quiet on the Western Front』(https://www.rottentomatoes.com/m/all_quiet_on_the_western_front_2022)
2023年第95回アカデミー賞4部門受賞!!
2023年3月13日に行われた第95回アカデミー賞授賞式では、見事4部門を受賞しました!!
- 国際長編映画賞
- 撮影賞
- 美術賞
- 音響賞
惜しくも作品賞の受賞とはならなかったものの、全作品で2番目に多い部門数で、その存在感を遺憾なく発揮しています。
世界各国から絶賛の嵐
ノミネートの段階では、アカデミー賞では全体2番目の9部門のノミネートがされており、作品への評価の高さがうかがえます。
さらには、英国アカデミー賞では最多の14部門ノミネート、7部門受賞と大車輪の活躍で、アカデミー賞でも大きな期待が寄せられていました。
その他多くの映画賞でも受賞し、まさに2022年、2023年の映画賞の顔ともなりましたね。
Netflixオリジナルだからこそのダイナミックさと緊張感のある映像やサウンドは、現代に沿って原作をより魅力的に映しており、本作品への評価は高まるばかりです。
ノミネート部門一覧
アカデミー賞でノミネートされていた部門は以下の通りです。
- 作品賞
- 監督賞
- 脚色賞
- 美術賞
- 撮影賞
- メイク・ヘアスタイリング賞
- 音響賞
- 視覚効果賞
- 国際長編映画賞
どの部門でも最有力候補としてあげられており、部門数にも注目が集まっていました。
ドイツ語で制作されている本作品は、アカデミー賞では外国語映画という枠になります。
前評判通り、外国語映画に贈られる国際長編映画賞は見事に受賞しましたね。
Netflixオリジナル作品初のアカデミー賞作品賞はならず
2018年の『ROMA』がアカデミー賞の場に衝撃を与え、そこからNetflixの映画賞での歴史が始まりました。
その後もアカデミー賞候補となる作品を毎年輩出してきており、昨年は『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が席巻しました。
ゴールデングローブ賞で作品賞に輝き、アカデミー賞もその年最多の12ノミネートと、もはやアカデミー賞は部門数の勝負と見られていました。
しかし、結果は監督賞のみの受賞となり、Netflix陣営は非常に悔しい思いを味わいました。
過去にアカデミー賞作品賞を受賞している同名の作品を再映画化し、“反戦”という圧倒的なテーマとNetflixが誇る技術を持ってして制作した今作品で初の栄冠を獲得することができるのか、と大きな期待が寄せられていましたが、惜しくも作品賞の受賞には至りませんでした。
まとめ
この記事では、Netflixオリジナル映画『西部戦線異状なし』の概要・あらすじを紹介するとともに、5つのポイントからネタバレ解説を行いました。
- 西部戦線は長期の塹壕戦であった
- 「祖国の誇り」という大義名分に殺された
- 若者の夢は希望ではなく、絶望そのものであった
- お互いの国の兵士が、何のために戦っているかわからなくなっていた
- 「西部戦線異状なし」というタイトルには、強い反戦メッセージが込められていた
改めて思いますが、戦争を描いた作品を見るとき、非常に体力を消費します。
それは映像から感じる視覚的な衝撃ももちろんですが、何より戦争の悲惨さと無力さがどっしりと胸に押し寄せてきます。
あくまで映画作品としての評価となりますが、戦争映画には作品に込められたメッセージに並々ならぬものを感じますね。
今、世界を揺るがせている争いが行われています。
なぜ、このような歴史があるのに、また戦争は起こってしまうのでしょうか?
なぜ、このような歴史があるのに、また命が奪われてしまうのでしょうか?
この時代だからこそ、本作品が掲げるメッセージは世界中に届くべきです。
全世界に影響力のあるNetflixとアカデミー賞が、この世界に平和をもたらすきっかけとなることを心から祈っています。