映画『TAR/ター』は観ましたか?
2023年5月12日に日本で公開された本作品は、2023年アカデミー賞で作品賞を含めた6部門にノミネートされ、世界で大きな評価を集めた作品です。
この記事では、映画『TAR/ター』の概要・あらすじを紹介するとともに、以下のポインントでネタバレ解説しています。
- 圧倒的な地位を築いたター
- ある物の死が歯車を狂わせる
- オルガとの出会い
- 崩壊する地位と自我
- 転落した先の結末とは・・・
ネタバレを含みますので、あらかじめご注意ください。
ホラー映画ではないのに、つい身震いしてしまうような緊張感を感じる作品になっています!
それでは、いってみましょう!
概要

映画『TAR/ター』は2023年に公開されたアメリカのドラマ映画です。
監督を務めるのは、『イン・ザ・ベッドルーム』や『リトル・チルドレン』を手がけたトッド・フィールド監督です。
自身長編3作品目となる本作品ですが、上記の2作品を含めた3作品全てがアカデミー賞にノミネートされています。
主演を務めるのは、『ブルー・ジャスミン』や『アビエイター』でアカデミー賞を受賞したケイト・ブランシェットです。
本作品における彼女の演技への評価は凄まじいほど高く、主要な映画祭や映画賞で主演女優賞を受賞し、本作品も主演女優賞の大本命でした。
主人公である指揮者ターの栄光と苦悩、そして絶望を描いており、とても重厚なストーリーに仕上がっています。
監督 | トッド・フィールド |
出演 | ケイト・ブランシェット ノエミ・メルラン ニーナ・ホス ソフィー・カウアー |
時間 | 158分 |
ジャンル | ドラマ/音楽 |
制作 | アメリカ |
公開 | 2023年5月12日 |
予告動画
あらすじ
ドイツのベルリンで女性として初めてオーケストラの主席指揮者を務めていたリディア・ターは、EGOT(エミー賞、グラミー賞、アカデミー賞、トニー賞)を制覇するなど指揮者として栄光の道を辿っていた。
彼女にはオーケストラでバイロリンを務めるシャロンというパートナーがおり、2人でペトラという養女を育て順風満帆な生活を送る。
しかし、ある日もともとターが指導していたクリスタという女性指揮者が自殺したという報せを受け、徐々に歯車が繰り出す。
栄光の真っ只中にいたターが迎える結末とは・・・
登場人物/キャスト
ネタバレ解説に入る前に、映画『TAR/ター』の登場人物を紹介します。
主人公のターを中心に物語は進んでいきますが、それぞれ3人の女性の存在が非常に重要になっていますので、ぜひチェックしてみてください!
リディア・ター/ケイト・ブランシェット

ドイツ・ベルリンで、女性として初めてオーケストラの主席指揮者。
自身の音楽観に圧倒的な自信とこだわりを持っており、オーケストラのメンバーにも高い要求をしていた。
パートナーのシャロンと養女のペトラと3人で暮らしており、彼女の力強さがゆえに父親のような存在となっている。
シャロン・グッドナウ/ニーナ・ホス

ターを支えるパートナー。
ターが指揮者を務めるオーケストラでバイオリンを務めており、メンバーのオーディションなどに参加するほどオーケストラでの地位は高い。
狭心症を患っており、たまに発作を起こすことも・・・
オルガ・メトキナ/ソフィー・カウアー

ターのオーケストラに新しく加入したチェリスト。
堂々とした様と圧倒的な演奏スキルでターに気に入られ、コンサートではチェロ協奏曲のソロ演奏者に選ばれる。
フランチェスカ・レンティーニ/ノエミ・メルラン

ターのマネージャー的な役割を務めている。
本来は指揮者であるが、ターのサポートをしながら副指揮者を目指していた。
副指揮者に選ばれなかったことから、突如姿を消してしまう。
ネタバレ解説
ここからは、映画『TAR/ター』のネタバレ解説を行います。
主に5つのポイントで解説しており、基本的にはストーリーの流れの順番になっていますが、全ての物語は紹介しておらず特に大切な点を紹介していますので、一つずつチェックしてみてください!
- 圧倒的な地位を築いたター
- ある物の死が歯車を狂わせる
- オルガとの出会い
- 崩壊する地位と自我
- 転落した先の結末とは・・・
※ネタバレを含みますので、ご注意ください。
圧倒的な地位を築いたリディア・ター
女性として史上初のベルリン・フィルの主席指揮者を務めていたターはまさに栄光の真っ只中にいました。
冒頭、公開インタビューが行われているのですが、そこでターは誇らしげに女性としての地位、そして自身の持つ絶対的な音楽感を語っています。
音楽業界を始めたとしたあらゆる業界で女性の立場が時代とともに変わってきたこともあり、彼女はその時代を象徴を示していました。

男性指揮者がジャケットになっているレコードを床に並べて足で選んでいる姿を見ると、彼女とこの作品の性別に対する価値観が垣間見えますね
その権力と強いプライドは周囲の人々に対しても現れています。
指揮者であるフランチェスカにはマネージャーのような役割をさせており、基本的に身の回りのことはフランチェスカにさせています。
ジュリアード音楽院という歴史ある音楽学校では講師を務めており、ある黒人の生徒の指揮にもその片鱗を見せていました。
その男子学生が、性癖などによる理由からバッハは聞かないと言ったことに対して、「音楽と何の関係があるのか?そうやって音楽の知識を狭めるのは勿体ないことよ」と猛反論します。
負けじと男子学生が「白人は受け付けない」と反発したことに対しても、「あなたが黒人であることは指揮から感じられない」と周囲の生徒を巻き込んで追い込んでいきます。
たまらず男子学生は捨て台詞を吐いて教室を出ていくのでした。



的を得ない指摘をする副指揮者のセバスチャンを即刻クビにもしていましたね
さらに、人間としての強さを持っているターは親としてもその片鱗を見せます。
娘のペトラがいじめられていたことを知ると、学校まで出向きいじめっ子に「次にペトラをいじめたら容赦しないから」と大人気なくも親としての強さを見せていました。
こうやって学生や子どもであっても容赦せず、自分を正当化する彼女をそうさせているのは、音楽的な自信ももちろんですが、圧倒的な権力によるものであることも事実でしょう。
オルガとの出会い
作曲家としての一面も持つターは、なかなか曲が出来上がらないことに頭を悩ませていました。
そんな中オーケストラに欠員が出たことにより、新しくメンバーとなったのがオルガです。
彼女は物怖じしない性格であり、さらには圧倒的なチェロの実力を持っていました。
ターは彼女に惹かれていき、オルガの前では笑顔を絶やさないようなっていきます。
その姿をシャロンはよく思っておらず、ターに対して警告をしますが、あまり聞く耳を持ちません。
そしてオルガへの愛は加速していき、ついにはオーケストラの場にも持ち込みます。
演奏会で披露する楽曲をチェロ協奏曲に決め、ソロ奏者はオーディションで決めると言うのです。



本来であれば、これまでオケを引っ張ってきた第一奏者を指名するべきところなので、メンバー全員同様していましたね。
結局オルガはオーディションでソロ奏者を勝ち取り、ターは彼女を自宅に呼び個人的にレッスンを行うようになります。
オルガは自由気ままにわがままな姿を見せますが、ターは笑顔で対応し、さらにはオルガを車で送り届けてもいました。
欲しいものを全て手にしてきたターにとって、近くにいるシャロンやフランチェスカのような存在とまた違った存在が現れたので、気持ちが昂ったのでしょう。
誰のためにオケがあるのか?それを示すのは他の誰でもない指揮者なはずです。
その行動がのちに起こる事態にも大きな影響を及ぼすわけですね。
ある物の死が歯車を狂わせる
マーラーの交響曲第5番がまだ録音できていなかったため、その準備を進めていた中、フランチェスカからクリストという女性から連絡が続いていることを知らされますが、無視するように言っていました。
そして、そのクリストが自殺した、という報せが入ります。
焦ったターは、自身のメールの送信ボックスからクリストのことを記載したメールを消しました。
フランチェスカにも自分と同様にメールを全て消すように言うのです。



「クリストは指揮者として迎え入れることはできない」といったようなメールの内容でしたね。
かつてはフランチェスカと3人で旅行に出かけるような中でもありましたが、クリストが精神的な問題を抱えていたことがゆえに受け入れられなかったようですね。
決して周囲には見せないまでも、ターの中で次第に違和感が生まれるようになっていきます。
ある夜にはある音で突如目を覚まし、部屋の中を探すと誰かが触ったわけでもないのにメトロノームが動いているのでした。
さらにランニングをしていると、どこからか女性の悲鳴が聞こえてくるのです。
その後も冷蔵庫の音や呼び鈴の音など、ターはあらゆるものに悩まされていきます。
そしてそんな不穏な空気が現実となったかのようなことが起こりました。
クリストの自殺に関して、ターが告発されてしまったのです。
急にホラー的な展開となっていきますが、これは実際に怪奇現象が起こっているわけではなく、ターの抱える違和感が形となって出ているのです。
クリストの亡霊を自ら作り出してしまっていました。
ターは音楽に対する絶対的な自身を持っていましたが、そんな“音”に悩まされていくことになるのが、また皮肉が効いていますね。
崩壊する地位と自我
ターが告発されたことをきっかけに、ターは崩壊の道を進んでいくことになります。
まず、ターの側近であったフランチェスカが突如姿を消してしまいました。
セバスチャンを副指揮者からクビにした後、自身が副指揮者に選ばれなかったことによるものだと思われます。
ターは告発に備えて弁護士に頼わざるを得なくなりますが、フランチェスカがいないことにより自分1人で全てを行わなくてはなりません。
フランチェスカの失踪に怒りを持ったターはフランチェスカの自宅を訪ねますが、すでに退去されていました。
さらに、オルガを送り届けた際、忘れ物をしたオルガを追いかけるのですが、地下に迷い込んだターは何者かの足音を感じて逃げ込んだ際に階段でこけて顔に大怪我を負ってしまいます。



ここでもクリストが自殺した後に起こっていた不穏な現象が起こっていますね
怪我をした状態でも何とかオケの場に姿を現し、男性に襲われたと嘘をついて平静を装います。
そして追い討ちをかけるかのように、ターは世間的に追い込まれていきます。
以前、ジュリアード音楽院で黒人の学生を追い込んだ動画がSNSで切り取られて拡散され、ターへの非難が集まりました。
それにより、ターの周りからどんどん人が離れていってしまいます。
出版会見にオルガを同行させていましたが、オルガはターの会見を聞いておらず、メールで「つまらない会見」と送っていました。
会見にオルガを連れて行っていることを知りシャロンは電話するもターは無視してしまい、激怒したシャロンはペトラを連れて去ってしまいます。
さすがにターは誰からも守られなくなり、ついにはオーケストラからも追い出されてしまうのでした。
結局、ターの周りにいた人の多くはターの権力や地位を求めていたことがわかります。
オルガはオケのソロ奏者となり、ターが落ちぶれていくと興味を無くしました。
フランチェスカは副指揮者になろうとターに取り入っていましたが、なれずに姿を消してしまいました。
本当に救おうとしたのはシャロンのみでしたが、無視してオルガを選んだことでシャロンにも見捨てられてしまうのです。
転落した先の結末とは・・・
居場所をなくしたターは狂っていきます。
隣人からピアノの音などが騒音で家が売れないという苦情を寄せられた際には、アコーディオンを弾きながら文句を歌い叫んでいました。
そして演奏会当日、ホールは満席となっていましたが、ターは突如現れて指揮者に殴りかかり、「私の楽譜よ」と叫び取り押さえられてしまいました。



まさに栄光から転落してしまった瞬間でしたね
しばらくして、ターは実家に帰ることになります。
自室にはトロフィーやメダルが飾られており、たくさんの撮り溜めた「ヤング・ピープルズ・コンサート」のビデオを見ながら、自身の音楽の原点を思い出し涙します。
再起をかけたターは、あるアジアの国に来ており、そこで改めて指揮者としての道を歩み始めました。
ある日、マッサージを案内してもらったところ、透明なガラスの向こうで番号が付けられた女性が目を瞑って座っていたのです。
その中から女性を選ぶように言われたターが驚いていると、「5番」を付けた女性がターを見つめていました。
耐えきれなくなったターは飛び出し、道端で嘔吐してしました。



マーラーの交響曲第“5番”を前に栄光から転落したターの前に現れたのが“5番”の女性というが、また皮肉の効いたところですよね
そしてアジアの地で再び指揮台に上がったターでしたが、オケの後ろにはスクリーンが登場し、「モンスターハンター」の映像が投影されます。
会場にいたのは、コスプレをしたゲームファンの人々でした。
※実際に日本でも「狩猟音楽祭」というモンスターハンターの世界をオーケストラで堪能することができるコンサートがあります。以下リンクをチェック!
「MONSTER HUNTER 狩猟音楽祭オーケストラコンサート 2023」:https://www.promax.co.jp/mhoc/2023/
あれほど音楽に対して研究熱心であり、自信を持っていたターですが、見事に転落してしまい、行き着いたのはゲーム音楽のコンサートでした。
これを「転落」ととるのか、「再出発」ととるのか。
どちらにせよ、自身の持つ権力が一瞬で崩壊し全てを失ってしまったターに残っていたのは、これまで積み上げてきた音楽のみなのです。
各レビューサイトでの評価


本作品の世間の反応や評価について紹介します。
それぞれ点数と主なレビューを3件ずつ紹介していますので、気になる方はぜひリンク先をチェックしてみてください!
Filmarksの使い方については以下の記事を参考になります。


Filmarks
・画の力の強さを感じ、2時間40分全く飽きなかった!
・キャンセルカルチャーを連想させた世相に沿った作品だった
・圧倒的なケイト・ブランシェットの演技力!
Filmarks:『TAR/ター』映画情報・感想・評価ページ(https://filmarks.com/movies/100794)
IMDb
・観れば観るほど発見を得られる作品だ!
・ケイト・ブランシェットの演技はマスタークラスだ
・「作者の意図」という作中に示していたメッセージをこの作品自体に感じることができた
IMDb 『Tár』(https://www.imdb.com/title/tt14444726/)
Rotten Tomatoes
・ケイト・ブランシェットの演技が徐々に強くなり始め、深刻さを示していた
・上流社会の権力とその権力の行使について、恐ろしくも素晴らしく描かれていた
・宣伝の時の期待感を見事に上回る稀な作品
Rotten Tomates 『Tár』 (https://www.rottentomatoes.com/m/tar_2022)
主演女優賞を総なめ!
本作品で主演を務めたケイト・ブランシェットは、その圧倒的な演技に評価が集まり、多くの賞を受賞しています。
- ヴェネツィア国際映画祭
- ニューヨーク映画批評家協会賞
- ゴールデングローブ賞
- 英国アカデミー賞(BAFTA)
- ロサンゼルス映画批評家協会賞
- クリティクス・チョイス・アワード
- シカゴ映画批評家協会賞
見てわかる通り圧巻の結果です。
あの演技を見させられたら納得をせざるを得ないのですが、それほどまでに衝撃を与えた作品となりました。
このように受賞できる賞はほぼ受賞していますが、肝心のアカデミー賞は逃す結果となってしまいました。


2023年アカデミー賞
その年の映画賞を総なめしていたケイト・ブランシェットは、アカデミー賞でも当然主演女優賞にノミネートされており、大本命でした。
直前までは、主演女優賞に関しては予想が簡単なほどに受賞確実であるとまで言われておりましたが、思わぬ存在が現れてしまいます。
それは、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』で主演を務めたミシェル・ヨーです。
彼女はアカデミー賞の直前に行われた全米映画俳優組合賞で主演女優賞を受賞し、一気に大本命に名乗りを上げました。
同様に作品自体も評価を高め、その勢いのままアカデミー賞を最多7部門受賞という輝かしい結果で終わっています。
『TAR/ター』は、主演女優賞をはじめ6部門にノミネートされておりましたが、惜しくも受賞を逃してしまいました。




まとめ
この記事では、映画『TAR/ター』の概要・あらすじを紹介するとともに、5つのポイントでネタバレ解説をしました。
- 権力を手に入れたターは、それにより自らを正当化していた
- オルガを気に入り、贔屓してオケのメンバーからの信頼を失った
- 以前の教え子が自殺したことにより、ターは亡霊に悩まされていた
- ターの地位は崩壊し、権力で保っていた周りの人々は離れってしまった
- 再出発したターはクラシックではなく、ゲームの音楽を指揮していた
昨今では、キャンセルカルチャーなどの傾向が見られますが、まさにそのことが描かれた作品でしょう。
そして、それを成立させているのはケイト・ブランシェットの圧倒的な演技力によるものです。
これからの出演作にも期待しましょう!