映画『その道の向こうに』は観ましたか?
2023年第95回アカデミー賞にて、助演男優賞にもノミネートされた話題作です。
心に傷を負った2人の男女が出会い、そして仲を深めながら生きていく物語になっており、過去のトラウマとどう向き合うかを教えてくれる作品になっています。
この記事では、映画『その道の向こうに』の概要・あらすじを紹介するとともに、主に4つのポイントでネタバレ解説を行なっています。
※ネタバレを含みますので、ご注意ください。
- 身体と心に負った傷
- 焦る気持ちは
- ジェームズのトラウマ
- リンジーのトラウマ
- “誰か”と生きていく
すでに観た人にとっては、作品をより深く知れる内容になっておりますので、ぜひ参考にしてみてくださいね!
それでは、いってみましょう!
映画『その道の向こうに』概要
2022年にアメリカで制作された心に傷を負った男女の物語です。
それぞれが抱える過去と向き合い、これからの人生をお互いに考えていく内容となっており、心に残る作品に仕上がっています。
2023年第95回アカデミー賞では、本作品からブライアン・タイリー・ヘンリーが助演男優賞にノミネートされました。
本作品を制作したのは、昨今の映画界を賑わし、注目の中心に存在する新進気鋭の映画会社「A24」です。
ヒット作を連発している「A24」は、2023年アカデミー賞では、作品賞に加えて主演男優(女優)賞、助演男優(女優)賞を独占しました。
監督 | リラ・ノイゲバウアー |
出演 | ジェニファー・ローレンス ブライアン・タイリー・ヘンリー リンダ・エモンド ジェイン・ハウディシェル |
時間 | 94分 |
ジャンル | ドラマ |
制作 | アメリカ |
予告動画
あらすじ
リンジーはアフガニスタンで軍隊にいた頃、爆発に巻き込まれて心身ともに大きなダメージを負ってしまい、ニューオリンズの実家に一時的に戻ることとなった
鬱屈としていた毎日を過ごしていたが、自動車整備士のジェームズとの出会いによって、徐々に友情を深めていく
お互いの過去のトラウマなどを打ち明けて少しずつ生き方を模索する2人であった
映画『その道の向こうに』登場人物/キャスト
本作品は、主にリンジーとジェームズの関係が描かれていますので、登場人物は多くありません。
リンジーの母や兄も登場しますが、ここでは割愛します。
2人とも心の中に大きなトラウマを抱えており、その魅力が存分に伝わる演技にも注目です!
リンジー/ジェニファー・ローレンス
本作品の主人公リンジー
以前、アフガニスタンで軍に従事していたが、爆発に巻き込まれて心身的な後遺症を負ってしまう
しばらくは治療にあたるために軍を抜け、地元に戻るが、軍への復帰を焦る気持ちから鬱屈した毎日を送っていた
主演を務めたのは、2012年『世界に一つのプレイバック』でアカデミー賞主演女優賞を受賞したジェニファー・ローレンスです。
若き頃から第一線で活躍を続け、『ハンガー・ゲーム』や『X-MEN』シリーズなどに出演をしています。
本作品は、着飾ることなく等身大な女性を演じる彼女にも大きな注目が集まっているので、彼女の演技にも注目していきましょう!
ジェームズ/ブライアン・タイリー・ヘンリー
ニューオリンズで自動車整備士をしているジェームズ
明るい性格だが、過去の車の事故で片足を無くしており、義足で生活している
その事故のトラウマから、心の中で大きなトラウマを抱えて生きている
ジェームズを務めたのは、本作品でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされたブライアン・タイリー・ヘンリーです。
ここ数年で頭角を表し、『エターナルズ』や『ブレット・トレイン』などに出演し、人気を集めています。
アカデミー賞助演男優賞にノミネートしたくらいなので、本作品における彼の演技への評価は非常に高いものがあるので、こちらも注目してきましょう!
映画『その道の向こうに』ネタバレ解説
ここからは、映画『その道の向こうに』をネタバレ込みで解説していきます。
主に4つのポイントで解説しており、基本的にはストーリーの流れの順番になっていますが、ポイントによっては順不同となることがありますので、一つずつチェックしてみてください!
- 身体と心に負った傷
- リンジーのトラウマ
- ジェームズのトラウマ
- “誰か”と生きていく
※ネタバレを含みますので、ご注意ください。
身体と心に負った傷
リンジーはアフガニスタンで軍に所属していたときに受けた爆弾での攻撃により、ひどい損傷を負いました。
身体がうまく動かせず、立つこともままならないほどの身体的なダメージはもちろんのこと、精神的にも大きなダメージを追っていました。
夜中に急な発作が遅い、しばらくは介護なしでは生きられない状態に陥ってしまいます。
しかし、薬の服用と、熱心な介護のおかげもあり、自力で生活できるほどにまで回復することができました。
そんなリンジーは介護の手を離れ、地元のニューオリンズに帰り、実家で生活を送ることになります。
どうやらリージーにとっては、地元に戻ることは喜ばしいことではなく、むしろ居心地の悪い場所になっていました。
その証拠に、リンジーは母に自分が帰る日を伝えておらず、予定より早い帰宅に母も驚きます。
居心地の悪さもあってか、すぐにプールの清掃を始めますが、仕事への復帰を急ぐのは実家への居心地の悪さだけではありませんでした。
リンジーのトラウマ
リンジーは車を運転しますが、まだ後遺症もあり、軽い事故を起こしてしまいます。
そんな中、車の修理で出会ったのがジェームズでした。
ジェームズと意気投合し、2人で会う機会も増えてきます。
しかし、リンジーはひたすらに軍への復帰を目指して焦っていました。
病院では、まだ安全ではないと医師に言われたものの、薬を断ち、軍に復帰したい、という願望を口にしています。
リンジーは、なぜここまで早期の復帰を望んでいるのでしょうか?
まず、一つ目の理由としては先述の通り、居心地の悪さです。
リンジーの家族は、母親の過剰な愛情によって縛られた生活を余儀なくされていました。
その反動からか、兄は薬物中毒になってしまい、現在は麻薬の売買により服役中です。
しかし、当の母親は恋人を作り、悠々自適な生活を送っていました。
ジェームズとの出会いから母との関係に再び希望を持とうとしますが、そんな母は娘との時間を捨てて恋人の元に行ってしまいます。
結局、昔のままであり、リンジー自身は安心を得られることがないのかと心を閉ざしてしまうのでした。
ここで考えられる二つ目の理由は、自分の存在を必要としてくれることへの安心感ではないでしょうか。
戦場に行けば居場所があり、自らを必要としてくれる人たちが周りにいます。
実家にはない感覚であり、自分自身の尊厳を強く保てるからこそ、彼女はいち早くその場に帰りたいと思っているのです。
ジェームズのトラウマ
明るく優しい性格のジェームズですが、彼にも非常に暗い過去が存在しています。
それは、交通事故による自身の足の切断と甥のアントワンの死です。
昔、水上道路(causeway)を走行中に事故に遭い、甥のアントワンは帰らぬ人となってしまいました。
そのことでジェスの母である妹とは絶縁状態となってしまい、一緒に暮らしていた広い家に1人で暮らす毎日を送っています。
ジェームズはその過去に対する自責の念に囚われ、心に大きな傷を抱えています。
そんな彼はリンジーと出会い、同じように心に傷を負っている人と関わることで自分の心の中に空いた穴を埋めようとしていました。
ジェームズは、リンジーに対して自身の家に引っ越してくることを提案し、「朝は一緒にコーヒーを飲んで、夜は一服するのも悪くないだろ?」と言います。
あれ以来孤独を感じ続けていた彼にとって、自分のことをわかってくれる“誰か”が側にいてくれることは、何よりも救われることだったのではないでしょうか?
そう、あの頃のように誰かといる安心感を求めているのです。
“誰か”と生きていく
リンジーは、相変わらず軍への復帰を志していますが、医師に止められる日々を過ごしていました。
根本からトラウマを克服しない限り、また同じことを繰り返す危険性を示唆されます。
この根本のトラウマとはなんなのか?
医師は戦場での記憶と思いますが、リンジーにとってのトラウマはそれとは異なることです。
もちろん戦場の記憶から呼び起こすトラウマもありますが、先述の通り、自分自身の存在に対する認知、そこから得られる安心感こそが彼女が生きていく上で追い求めていることなのですから、医師の思うトラウマには反します。
そういった思いを抱えていく中、リンジーとジェームズは真夜中のプールを泳いでいました。
2人のトラウマを改めて打ち明けていく中で、ジェームズの涙に同情して思わずキスをしてしまいます。
リンジーに恋心、そして安心感を抱いていたジェームズにとって、同情によるこの行為は許し難いことでした。
憤慨したジェームズとリンジーは口論となってしまい、ジェームズは「安心感を得られないことを周りの人のせいにして、自分自身が心を閉ざしているだけだ」と言い放ちます。
その後、2人は疎遠となってしまし、リンジーは刑務所に収監されている兄に会いにいきます。
兄は元気そうであり、兄は「ここにいられてよかった。また何をしでかすかわからないから」と今いる環境に対して前向きに生きていました。
その後、リンジーはジェームズに会いにいき、ジェームズの家に引っ越してきてもいいか聞きます。
軍にはしばらく戻らないことを伝え、「友達を作りたい」と伝えるのです。
リンジーはジェームズの言葉、そして兄の生きていく姿勢を見て、安心感を得るにはまずは自分自身が変わり、その環境を自ら作らなけらばダメだと思ったのでしょう。
軍に早く復帰したいと考えていたけれど、自分自身の本当のトラウマに対して向き合うことができたときこそ、本当に社会に復帰できるときだと気づくのです。
“誰か”と一緒にいること、それは決して誰でもいいわけではありませんが、その“誰”を見つけるのは自分自身です。
トラウマから脱却するには自分の行動しかない、そしてそうすることでいくらでも道は開けると教えてくれているのではないでしょうか。
各レビューサイトでの評価
本作品の世間の反応について紹介します。
それぞれ点数と主なレビューを3件ずつ紹介していますので、気になる方はぜひリンク先をチェックしてみてください!
Filmarksの使い方については以下の記事を参考になります。
Filmarks
・上質な人間ドラマ、2人の演技が素晴らしい
・傷つきながらも生きていく美しい映画だった
・向き合うことの大切さを感じられる作品
Filmarks:『その道の向こうに』映画情報・感想・評価ページ(https://filmarks.com/movies/105458)
IMDb
・非常に有意義で見る価値のある作品
・2人のパフォーマンスには心が揺さぶられた
・静かだけど力を感じられる作品
IMDb 『causeway』(https://www.imdb.com/title/tt10192406/)
Rotten Tomatoes
・今までにありそうでなかった友情の作品
・非常に繊細で感動的なドラマ
・素晴らしい演技と思慮深く質の高い作品に仕上がっている
Rotten Tomates 『causeway』 (https://www.rottentomatoes.com/m/causeway)
2023年第95回アカデミー賞
先述の通り、本作品は2023年第95回アカデミー賞において、助演男優賞にノミネートされました。
惜しくも受賞には至りませんでしたが、他にノミネートされた作品と比較すると、いかにブライアン・タイリー・ヘンリーの演技が評価されていたかが伺えます。
- キー・ホイ・クァン – 『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
- ブレンダン・グリーソン – 『イニシェリン島の精霊』
- バリー・コーガン – 『イニシェリン島の精霊』
- ジャド・ハーシュ – 『フェイブルマンズ』
- ブライアン・タイリー・ヘンリー – 『その道の向こうに』
結果としては、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』のキー・ホイ・クァンが受賞しましたが、他のノミネートされた作品である『イニシェリン島の精霊』と『フェイブルマンズ』も複数部門にノミネートされており、注目度は非常に高くなっていました。
その中で、本作品は助演男優賞のみノミネートされており、全体的に見るとそこまで注目度は高くありませんでした。
このことを考えると、ブライアン・タイリー・ヘンリーのノミネートは喜ばしいものがあり、これからの彼のキャリアの中で、助演男優賞あるいは主演男優賞の受賞を願うばかりですね!
まとめ
この記事では、『その道の向こうに』の概要・あらすじを紹介するとともに、4つのポイントからネタバレ解説を行いました。
- リンジーは軍で爆撃により、心身的なダメージを負っていた
- 家庭に安心感がなかったトラウマから、軍への復帰を急いでいた中でジェームズと出会った
- ジェームズは自身の運転で甥を亡くしているトラウマを抱えていた
- リンジーは自らのトラウマを脱却するためには、考え方や生き方を変えることが大切だと知り、ジェームズと一緒に暮らす選択をした
生きていれば、みなさんにもそれぞれトラウマの一つや二つあるのではないでしょうか?
それに対して、蓋をする人もいれば、しっかりと向き合って克服する人もいます。
トラウマを引きずって生きていくと、いつからかそれが外的要因であり、自分が被害者のように感じられてしまうこともあります。
リンジーのように、安心感を得られない人生だったからこそ、一度立ち止まり、自分から安心感を得られる人生を探すことは簡単そうに見えてとても難しいことです。
しかし、そうした選択をすることがこの先の人生を必ず照らしてくれるのでしょう。